科学技術のアネクドート

<< 自分のいる場所の雨降りを自分で判断 | main | 「ありがとうございます」でなく「ありがとうあります」 >>
「五輪をやっていたら酷暑は杞憂だった」とはならない


画像作者:NASA's Goddard Space Flight Center

新型コロナウイルス感染症(COVID-19:COrona VIrusu Disease 2019)の影響がなければ、(2020年)7月23日(木祝)から8月8日(土)にかけては東京五輪の競技期間でした。「もし、開催していれば、いまごろ世の中はどうなっていて、自分はどう過ごしていただろう」などと思いをはせる人もなかにはいるでしょう。

「このくらいの気象条件で、競技がおこなわれていたんだ」と思う人もいるかもしれません。たとえば東京地方では、23日(木祝)からきょう27日(月)までの日ごとの最高気温は、26.0度、27.2度、27.4度、31.2度。「このくらいの気温であれば、選手への負担もそう大きくはないのではないか」と思う人もいるでしょう。

しかし、もし仮に新型コロナウイルス感染症が生じず、無事に東京五輪が開催されていたとして、いまのような気象条件になっていたかというと、それはなんともいえません。今の気象条件を決める初期値が異なっていたはずだからです。

たとえば、地球の気候を決める要素のひとつに「煙霧質」とよばれるものがあります。「エアロゾル」ともよばれます。これは、大気中に直径0.000001ミリメートルから0.0001ミリメートルほどの微粒子が漂っているもので、なかには「すす」のように人の活動により生じるものもあります。

一般的に、煙霧質の多くは地球の温暖化を抑える方向にはたらくとされますが、すすは逆に大気を加熱する方向にはたらくとされます。ただし、煙霧質がどのようにはたらくかについての不確実性はきわめて大きいといわれています。

世界では、新型コロナウイルス感染症による都市封鎖などで、工場の操業が停止するなどしました。中国では、ことし春先にかけて大気汚染が大きく改善されたと伝えられます。

もし、仮に新型コロナウイルスの感染拡大が起きなければ、それまでどおり工場は操業していたことでしょう。それによる大気汚染も例年なみに生じ、大気中の煙霧質をめぐる状況も異なっていたことでしょう。

さらに重要なのは、ある場所、ある時期の気候や気象を決める要素は、煙霧質だけでなく、たくさんの種類があるということです。二酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄などの温室効果ガスとよばれる気体はその例で、人間たちがどれだけ排出したかにより、その後の気候や気象は異なってくるものと考えられます。

2020年7月下旬の東京の気象は、過去におけるさまざまな要素が重なりあったうえで生じているものです。そのため、新型コロナウイルス感染症が生じなかった「仮の世界」と、生じた「実際の世界」では、気象が異なっていたにちがいありません。

このまま閉会式がおこなわれていたはずの8月8日まで、もし酷暑にならなかったとしても「東京五輪の暑さに対する心配は杞憂だった」とはいえないわけです。

まして「来年もおなじ時期に開くのだから大丈夫だろう」などといえるはずがありません。来年おなじ時期に開けるのかはべつとして。

参考資料
気象庁 各種データ・資料「日ごとの値 東京 2020年7月(日ごとの値)主な要素」
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/daily_s1.php?prec_no=44&block_no=47662&year=2020&month=7&day=23&view=
テンミニッツTV「エアロゾルが気候にもたらす多様な影響」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2675
塩竈秀夫「人間活動が世界の気候に与える影響 温室効果ガスとエアロゾルの変化の影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/52/6/52_371/_pdf/-char/ja
AFP 2019年6月8日付「天然ガス需要、2018年に急増 環境団体は気候への影響を懸念」
https://www.afpbb.com/articles/-/3229023
CNN.co.jp 2020年3月18日付「新型ウイルス対策で中国の大気汚染が改善、数万人が救われた可能性」
https://www.cnn.co.jp/world/35150996.html

| - | 16:49 | comments(0) | -
コメント
コメントする









CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE