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「本の情報劣化」避ける努力の価値下がる

写真作者:Mauricio Sepulveda

「本の情報が劣化する」という問題を、気にする人は気にします。

たとえば、2020年1月に出版された本があります。この本に載っている情報は、改訂されないかぎり、2020年1月より前のものとなります。すると、そこに書かれてある情報は、相対的にどんどん古いものとなっていきます。半年後や1年後にもはや通用しなくなる記述内容も出てくるでしょう。こうして、本に載せた情報がどんどん古くなることを、本の情報劣化とよぶことがあります。

雑誌やウェブニュースなどの記事では、さほど「情報劣化」を気にする人はいません。記事には「何年何月号」や「何月何日付」といった発信日時の情報が添えられて、たとえ1年後にその記事が読まれたとしても「1年前の時点での情報である」と伝わるからです。

本にも最後のページのほうにある奥付に発行年月日が記されるので、それを見れば「1年前の時点での情報である」と理解はできます。しかし、奥付に記された発行年月日は目だたず、また本は記事とちがって、より長いあいだ読者の目に触れられる可能性があります。そのため、とくに本については情報劣化を気にするという人が、著者や編集者を中心にいるわけです。

本の情報劣化を気にする人は、あえて最新情報をその本に載せないこともあります。「最新の研究成果ではこんなことが解明された」と記すと、その分野で新たな研究成果が出たとき、その研究成果が「最新」でなくなるからです。「最新」と書かず「2020年には」と書いたとしても、情報が更新されれば、そこに書かれてある情報は劣化していることになります。そこで、すっかり定着している理論や知識のみで埋めつくそうとする原理主義的な本づくりがされることもなくはありません。

しかし、1世代前にくらべると、本の情報劣化を気にして避けようとする努力は、さほど価値の高いものではなくなってきているかもしれません。

もはや本も、出版された直後に読まれなければ、その後も読まれないような媒体になっています。本の販売部数が減るのとは裏腹に出版点数は増え、本屋で平積みされる日数も短くなりました。となれば「新しい情報を載せると劣化するから」と出しおしみして最新情報を伝えないほうが、読まれる機会を減らしてしまうことになります。

さすがに、この先どう転ぶかわからないような情報を事実であるように書いて本に載せてしまうと、それが覆ったとき、その本の情報価値は大きく下がってしまいます。それを避けるために、定まっていない情報は載せないというのは手としてあるでしょう。

しかし、直近の研究や取材によりわかった最新情報を、本に載せる意義があるのに載せないという手はありません。「2020年までの情報しか載っていない」と残念がる人よりも、「2020年の情報が載っている」とありがたがる人のほうが多いはずです。
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