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夏場に弱いとされるが、感染者は減らず


写真作者:Rob Lee

新型コロナウイルス感染症「COVID-19」(COrona VIrus Disease 2019)をめぐっては、「夏場になれば感染拡大の勢いが衰える」といった見かたがあります。しかし、「冬に流行り、夏に鎮まる」といった流行の季節性が著しいインフルエンザウイルスなどとちがって、新型コロナウイルスの感染確認の数は夏を迎えても鎮まっていません。

「緊急事態宣言」が全国で解除されたのが(2020年)5月25日(月)。それ以降も、日本国内で、新型コロナウイルスの感染が新たに確認された件数は日ごとに微増傾向にあります。6月21日(月)からきのう28日(日)までの1週間での1日平均での国内新規感染者数は92人。緊急事態宣言の全国での解除が発表されるまでの1週間では、1日平均31.1人でした。

ウイルスは、夏場に感染力が弱くなるものがあることが知られています。典型的な種類が、インフルエンザウイルスです。感染症研究所が発表している「インフルエンザ流行レベルマップ」によると、すくなくともここ3シーズン、毎年50週目つまり12月ごろに患者報告数が増えはじめ、翌年の20週目つまり5月ごろにはほぼ鎮まっています。2019年から2020年にかけては、例年より患者報告数が低くなりましたが、この増えはじめる時期と静まる時期は例年とおなじです。

新型より前のコロナウイルスがもたらす「ふつうの風邪」についても、一般的に季節性はインフルエンザとおなじで、「冬に流行り、夏に鎮まる」と知られてきました。インフルエンザとちがってふつうの風邪は、さほどきちんと件数が管理されていないので、あくまで広くいわれている一般的な傾向ですが。

どうして、インフルエンザウイルスや、ふつうの風邪をもたらすコロナウイルスが、夏場に弱まるのか。研究者や専門家たちは、これらのウイルスが「高温や多湿に弱いから」といいます。

インフルエンザウイルスやふつうの風邪をもたらすコロナウイルスは、タンパク質でできた膜で覆われています。この膜は熱や湿度に弱く、膜が壊れると感染力を失うとされます。

また、湿度が高いと、人の口から出た飛沫が水分を奪われにくくなるため、重くなって下に落ちやすくなるともされます。つまり、空気中を漂いにくくなるわけです。インフルエンザや風邪では、くしゃみやせきをきっかけとする飛沫感染が感染経路のひとつとされるので、湿度の高さは飛沫感染を抑えることにつながりそうです。

これらの理由から、高温や多湿の季節には、これらのウイルスによる感染は鎮まると考えられています。

ただし、あらゆるウイルスが高温で多湿になる夏場に弱くなるかというと、そういうわけではありません。夏に流行を迎えるウイルス性感染症もあります。

たとえば、「プール熱」ともよばれアデノウイルスが原因となる「咽頭結膜熱」、またエンテロウイルスが原因となる「手足口病」や「ヘルパンギーナ」などの感染症は夏場に流行します。どうして、これらのウイルス性感染症が夏場に流行るのかについては、明確な説明がない状況といいます。ただし、ウイルスも多様ですから、夏場や高温多湿な地域で活発になりやすい種があっても不思議ではありません。

新型コロナウイルスは、「新型」とはいえコロナウイルスのひとつです。その点からすると、「新型」ではないコロナウイルスとおなじように、夏場に感染力が弱まることは理にかなっています。

海外では、ブラジル国内での気温差と新型コロナウイルス患者数の関係を検討した研究や、中国100年での気温や湿度と感染者数の関係を検討した研究がなされています。それらによると、高温や多湿な環境のほうが、新型コロナウイルスが感染しにくい傾向があるとされます。

しかし、そうだとすると、日本国内での6月に入ってからの新型コロナウイルス感染者数の微増傾向は、どう説明がつくのでしょう。今年6月のこれまでの東京の平均気温と平均湿度は、それぞれ23.1度と82パーセント。緊急事態宣言があった4月ではそれぞれ12.8度と66パーセントだったので、確実に夏らしくなっています。

「緊急事態宣言の期間中は人びとがとくに行動を制限していたから、新型コロナウイルスの感染者数は減ったのであり、宣言の解除後は人の行動が活発になったため、ふたたび感染者数が増えてきているのだ」とする見かたも専門家のあいだで見られます。

そうだとすれば、新型コロナウイルスは、すくなくともインフルエンザウイルスとちがって、高温や多湿になれば自然と感染力が失われるようになるものではない、ということが導きだせそうです。現に、インフルエンザと新型コロナでの報告数・感染確認数の推移のしかたのちがいにも、その傾向が表れています。

人が人との物理的な距離をとるといった「人の手」による感染拡大抑制の効果は、新型インフルエンザについてもある程度わかっているといえます。しかし、「人の手」によらない自然環境での新型ウイルスの拡がりかたと抑えられかたについては、これまでのウイルス感染の例からは説明のつきづらい部分が、まだ多くありそうです。

参考資料
NHK特設サイト 新型コロナウイルス「日本国内の感染者数(NHKまとめ)」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/
厚生労働省 2020年4月10日発表「インフルエンザの発生状況について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000620714.pdf
奈良県感染症情報 2020年5月18日〜24日「夏に流行するウイルス性の感染症」
http://www.pref.nara.jp/secure/222251/0221.pdf
齋藤昭彦「夏に流行する感染症」『調剤と情報』2018年7月号
http://www.jiho.co.jp/Portals/0/ec/product/ebooks/mag/cho/cho1807/cho1807.pdf
忽那賢志 2020年6月13日「気温や湿度と新型コロナの関係」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200613-00183109/
毎日新聞 2020年6月26日付「ウイルスが『苦手な』夏、新型コロナは? 気温や湿度で説明できぬ感染動向」
https://mainichi.jp/articles/20200626/k00/00m/040/156000c
朝日新聞 2020年6月10日付「新型コロナ、暑さや高湿に弱いのか 研究者の見方は」
https://www.asahi.com/articles/ASN6B352KN5VUBQU00H.html
気象庁「東京2020年(月ごとの値)主な要素」
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s1.php?prec_no=44&block_no=47662&year=2020&month=&day=&view=p1

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