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「連続空気室」の上に直おき

6月に入り、いよいよ蚊が飛びまわる時期となりました。耳元に迫る鳴き音にうちわをはたきまくり、食われたあとに爪でばってんを刻むことを、夏の風物詩と感じる余裕ある人はめったにいません。となると、蚊とり線香の出番です。

電気を使わずに火をつけて煙で蚊を追いはらう蚊とり線香は、除虫剤のなかでは伝統的なしくみのものといえましょう。しかし、香とり線香をつくる会社は、伝統のなかにも技術的な変化を追いもとめているようです。

蚊とり線香も線香ですので、使っているときは先端に火が灯るし、じょじょに灰が生じて下に落ちます。部屋の床にそのまま置いていたら危ないし汚れます。

そこで「線香皿」の出番となります。

かねてから蚊とり線香を使うときは、「y」のかたちをした金属製の線香たての先端を、香とり線香の渦まきの中心にあいた穴に突きさして、市販の皿などに置いておくものでした。



しかし近年、缶入りの蚊とり線香では、缶のふたを裏がえすと、そのまま「線香皿」として使えるようになっています。たとえば、「金鳥」の銘柄で知られる大日本除虫菊の「金鳥の渦巻」の缶入りでは、ふたを裏がえして「日」型をした付属の上ぶたをはめて使うようになっています。



缶に印刷されている「線香皿の使い方」の絵によると、線香たてを使うことなく、蓋についている白いマットにそのまま蚊とり線香を直おきすればよいことになっているではありませんか!



部屋に敷かれている白いマットに、火のついた蚊とり線香を直おきするのはためらわれます。しかし、絵をどう見ても、線香たてはなく、直おきとなっています。「さあ、どうぞ直おきしてください」といわんばかりの堂々とした絵が描かれています。

なぜ、白いマットに火のついた蚊とり線香を直おきしてもよいのか。その答は、缶の印刷にも、製品のウェブサイトにもあります。

「線香皿の白いマットは不燃性のガラス繊維です」

サイトの参考先にもなっている硝子繊維協会の情報によると、ガラス繊維のなかでも線香皿のマットに使われているような短繊維は、「リサイクルガラスを主原料に高温で溶解し綿状に繊維化した、細い繊維の集まり」のことといいます。

ガラス短繊維は、細かい繊維が絡みあっています。これにより「連続空気室」というつくりとなっていて、ここでは空気が止まって動かず、よって熱の移ろいが起きにくくなっています。

火が燃えやすい条件に、高い温度となって熱エネルギーが増え、物質どうしがぶつかり合うことがあります。しかし、連続空気室をもつガラス短繊維は、熱の移ろいが起きにくいため、火が生じにくく、また燃えにくい素材といえます。

このため「大丈夫だろうか」という不安をよそに、缶入り蚊とり線香のふたは、ガラス繊維でできた白いマットが敷かれることで、火のついた線香の直おき皿となるわけです。

なお、蚊とり線香が燃えるとヤニが生じます。このヤニが線香皿に多くつくと、線香の熱でヤニが溶けて線香の火を消したり、逆に燃えあがらせたりすることがあるため注意を要します。缶や「金鳥の渦巻」サイトでは、これらを防ぐため10巻ごとを目安に、中性洗剤で洗うようによびかけています。

線香たてと市販の皿を使って蚊とり線香を焚くか。燃えない白いシートつきの缶ふたを使って蚊とり線香を焚くか。使う人によって好みは分かれるところでしょう。企業が、燃えない白いシートつきの缶ふたを使ってもらおうとするのには、「提供する製品でできるだけ使いかたを完結させたい」というねらいがあるのではないでしょうか。

参考資料
KINCHO「製品情報 金鳥の渦巻」
https://www.kincho.co.jp/seihin/insecticide/kincho_uzumaki/uzumaki/index.html#p-locateinfo
KINCHO「KINCHO製品 Q&A 金鳥の渦巻(蚊取り線香)」
https://www.kincho.co.jp/seihin/qa/qa_uzumaki.html
硝子繊維協会「グラスウール(短繊維)の特長/断熱性」
https://www.glass-fiber.net/glasswool_short_dannetu.html
消防庁大学校 消防研究センター「ものはなぜ燃えるのか」
http://nrifd.fdma.go.jp/public_info/faq/combustion/index.html

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