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無作為な場面転換を脳が辻褄あわせ

絵画作者:Pedro Ribeiro Simões

小説家の堀辰雄(1904-1953)は、『鳥料理』という作品のなかで「夢の場面」についてつぎのように述べています。
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突然、夢の場面が一変する。――が、それは場面が連続的に移動するのではない。それは不連続的に移動する。つまり、二つの場面の間にはぽかんと大きな間隙が出来てしまっている。目が覚めてから、夢がどうも辻褄が合わなく見えるのは、その間隙の所為が多い。
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寝ているときに夢の場面が一変するというのは、多くの人が経験しているところではないでしょうか。

ある人は、飲食店で洗面室に入るために戸を開けたら、プロ野球の試合がおこなわれている屋外球場の観客席につながっていて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19:COrona VIrus Disease 2019)の影響で客がまばらななかで試合を観ていると、突然に雷雨となり、避難しようと通路から屋根のあるところに出ようとしたら、空港の通路にいて、そこでようやく洗面所にたどり着くことができた、という夢のなかでの「瞬間移動」を体験したそうです。

一般的に、夢は見聞や経験したことの記憶がつなぎあわさったものとされます。実験心理学を専門とする江戸川大学教授の福田一彦さんは、取材記事で「数ある記憶の中からどれが掘り起こされるかは、その時々の精神状態やストレスなどの影響を受けることもありますが、ほとんどの場合はランダムです」と述べています。

夢に出てくる場面は、ランダム、つまり、なにが出てくるかは本人もほぼわからない無作為なもの。ほんとうは、ある場面とつぎに現れる場面には、なんのつながりもないのかもしれませんが、脳がそれらの場面と場面を辻褄あわせして、物語化するもののようです。

夢を見ていながらも、「土砂降りの雨が降ってきたぞ」などとその夢を見ている自分についての意識が現れるのも、脳がその夢を物語化することに関わっているのかもしれません。

堀辰雄は、上のくだりに続けて、つぎのように述べています。
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私はその間隙を何かで充填しようと努力してみることがあるが、どうもそれがうまく行かない。私は此処でもそれをその間隙のままにしておくよりしかたがない。
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夢を見ている自分についての意識をもってして、夢への介入または制御を試みるわけですが、「どうもそれがうまく行かない」。自分の見ている夢のほうが、夢を見ている自分についての意識よりも勝る。これも、多くの人が経験しているところではないでしょうか。

参考資料
堀辰雄『鳥料理』
https://www.aozora.gr.jp/cards/001030/files/4817_14382.html
日経Gooday 30+ 2015年10月5日付「どうして人は、訳の分からない夢を見るのか」
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO92326260R01C15A0000000/
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