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「釣りあう」から「お釣り」


あまりにも暮らしに溶けこみすぎて「なぜ、こう言うのだろう」と疑問さえ抱かないようなことばはあるものです。

「お釣りは幹事さんがとっておいていいよ」
「釣りは要らねぇぜ」
「はい、お釣り、100万円」

代価より多いお金を渡したり受けとったりしたときに戻される差額の金銭を「お釣り」といいます。「釣り銭」や「釣り札」からきたものです。

しかし、どうして「お釣り」なのでしょう。自分と相手とのお金のやりとりに決着がつくのだから「お決し」でもよかったはずです。「お釣り」だと、まだ宙ぶらりんになっているようで、お金のやりとりが済んだ感がありません。

「お釣り」の「釣り」は「釣りあう」からきているということです。たしかに、自分のほうにも相手のほうにも損や得が傾かず、たがいの金額に平衡がとれるわけですから、お釣りのやりとりで「釣りあう」ことになります。

しかし、そうすると、なぜ均衡がとれることを「釣りあう」ということになったのでしょう。

考えられることは、昔のはかりのことを指していたということです。人類がはじめに発明したはかりで、日本でも最古から使われてきたとされるのが、天秤ばかりです。竿のまんなかを支点として、両端に皿をつるし、いっぽうに重さをはかりたいものを載せ、もういっぽうに分銅を載せます。竿が「釣りあう」ことでものの重さがわかります。「はかり」ということばは、815(弘仁6)年の『新撰姓氏録』のなかに、「万物をかけ定め、交易に使う波賀理(はかり)」とあり、これも天秤ばかりであったことが推測されます。

もっとも、物々交換を暮らしの基本としていた太古の時代には、天秤の両方の皿に、ものとものを載せていたかもしれません。たとえばお米と麦とを載せ、「釣りあう」ことで、物々交換が成立したというように。

さらに、てこの原理を利用して、重さをはかりたいものを竿の一端につるし、もう一端には分銅をつるし、分銅の左右位置を動かして、釣りあったところの分銅の目もりを読んで重さをはかる「竿ばかり」が登場しました。こちらも「釣りあう」ことを原理としたはかりです。竿ばかりについては、使われた時代は、江戸時代からとも、室町時代までさかのぼるともされます。


1839(天保9)年に伴信友が著した『職人歌合画本』に出てくる竿ばかり
所蔵:国立国会図書館

なお、十分すぎて余りが出ることを「お釣りがくる」といいます。「きのうの失敗を補ってなおお釣りがくるほどの大仕事」といったように。「お釣り」がきたら、「釣りあい」がとれるはずなのに、余りが出るほどのものごとを指すとは。日本語は奥深いものです。

参考資料
由来・語源辞典「お釣り」
http://yain.jp/i/お釣り
西東社編集部『心に響く! 美しい「日本の言葉」2200」
https://www.amazon.co.jp/dp/4791624262
為替衡器製作所「はかりの歴史」
http://kawasekouki.co.jp/history.html
金沢くらしの博物館「仕事〜計る・運ぶ」
https://www.kanazawa-museum.jp/minzoku/teachers/data_detail08.html
はかり商店「はかりのしくみの歴史」
https://hakari-shouten.com/help/knowhowhistory
日本大百科全書「さお秤」
https://japanknowledge.com/contents/nipponica/sample_koumoku.html?entryid=247
大辞林 第三版「御釣りが来る」
https://kotobank.jp/word/御釣りが来る-453172
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