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多くの遺伝子は「切り貼り」「写し貼り」で、動く


コンピュータ上で文字を入力するとき、「切り貼り」と「写し貼り」という二つの似て非なる作業をすることがあります。「切り貼り」は、そこにある文字列を切りとって、べつのところに貼りつける作業で「カット・アンド・ペースト」とよばれます。「写し貼り」は、そこにある文字列を写しとって、べつのところに貼りつける作業で「コピー・アンド・ペースト」とよばれます。

「切り貼り」と「写し貼り」に、それぞれ喩えられるような現象がたえず、生きもののからだのなかで、おこなわれているといいます。

細胞のなかには、染色体あるいは核様体とよばれるつくりのものがあります。さらに染色体や核様体のなかには、遺伝子の部分をふくむデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)があります。

遺伝子は、デオキシリボ核酸の配列上のところどころにあるわけですが、どの遺伝子もつねに定位置に収まっているかというと、そうでもありません。かなりの遺伝子が、おなじ染色体上を、またときには、ある染色体上からほかの染色体上へと自由に移動していくのです。こうした移動することのできる遺伝子を「転移因子」、英語では「トランスポゾン」とよびます。米国の生物学者バーバラ・マクリントック(1902-1992)が1940年代、トウモロコシに班模様の入った粒が生じることの原因を突きとめるなかで、初めて転移因子を発見しました。

転移因子は、デオキシリボ核酸の線上のあるところから、べつのところへと移動するわけですが、その移動のしかたにはおもに2種類あります。つまり、コンピュータ操作でいうような、「切り貼り」型と「写し貼り」型があるのです。

自身の遺伝子を切りとって、べつの場所に移動し、そこに挿入するのが「切り貼り」型です。「切り貼り」型の転移因子を「デオキシリボ核酸(DNA)型転移因子」あるいはたんに「転移因子」といいます。ある場所から遺伝子がそっくり抜けて、べつの場所にそっくり入るので、しくみ的には単純です。

いっぽう、自身の遺伝子を写しとってから、べつの場所に移動し、そこに挿入するのが「写し貼り」型です。自身の遺伝子を写しとることを「転写」といいます。転写される前の遺伝子はデオキシリボ核酸の配列上にありますが、転写されるとリボ核酸(RNA:RiboNucleic Acid)としての配列になります。

さらに、このリボ核酸配列を、デオキシリボ核酸に転写しなおします。この過程は、「デオキシリボ核酸からリボ核酸へ」という進めかたとは逆を行くため「逆転写」とよばれます。

このように「写し貼り」型では、もとの遺伝子はそのままありながら、転写さらには逆転写によって、新たな遺伝子をつくりだし、それをべつの場所に挿入します。このような「写し貼り」型でべつの場所へと入っていく転移因子を「レトロ型転移因子」とよびます。「レトロ(retro)」には「逆を向く」といった意味あいがあります。

生きものの種類にもよりますが、「切り貼り」的なデオキシリボ核酸型転移因子よりも、「写し貼り」的なレトロ型転移因子のほうが、構成比率としては多め。偶然でしょうが、コンピュータで「切り貼り」をするよりも「写し貼り」をするほうが多いのとおなじです。

ヒトの染色体すべてをなす要素のうち、遺伝情報をもたない部分をのぞいた遺伝子の比率はおよそ44.5パーセントあります。この44.5パーセントのうち、定位置にとどまる遺伝子はおよそ1.5パーセントのみ。DNA型転移因子は倍の3パーセントほどあり、さらにレトロ型転移因子に至ってはおよそ40パーセントにもなるといいます。「多くの遺伝子は、切り貼りや写し貼りによって動くものである」と考えてもよさそうです。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「トランスポゾン」
https://kotobank.jp/word/トランスポゾン-161371
知恵蔵「トランスポゾン」
https://kotobank.jp/word/トランスポゾン-161371
日本光合成学会「トランスポゾン」
https://photosyn.jp/pwiki/index.php?トランスポゾン
かずさDNA研究所「DNA物語(18)最終回」
https://www.kazusa.or.jp/cms/wp-content/themes/kazusadna/assets/images/pdf/dnastory_18.pdf
imidas「レトロトランスポゾン」
https://imidas.jp/genre/detail/K-109-0102.html
第辞林第三版「逆転写」
https://kotobank.jp/word/逆転写-243067
東京医科歯科大学「脳の認知機能に重要なレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子を発見」
http://www.tmd.ac.jp/mri/press/press29/index.html
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