2020.02.15 Saturday
「エーテル」なくとも「イーサー」あり
写真作者:Andy Melton
ものごとのよび名の由来を知らないまま、「そういう名がついているから」と、そのよび名を使っていることは多いものです。
家電量販店などでは、客が店員に「あのぉ、イーサーネットっていうんですか、パソコンをインターネットに接続するケーブルの。どこに置いてありますか」などと尋ねていることがあります。
厳密には「イーサーネット」はケーブルではありません。コンピュータネットワークの規格です。このイーサーネットの規格にもとづくケーブルは「LAN(Local Area Network)ケーブル」とよばれます。
「イーサーネット」はなぜ「イーサー」とよばれているのか。これは、かつて光の波を伝える媒質として存在が信じられていた「エーテル」という物質の由来するものとされます。「イーサー」も「エーテル」も、ともに“ether”と綴ります。
1973年5月、米国の電気工学者ロバート・メトカーフ(1946-)が、米国ゼロックスのパロアルト研究所に所属していたころ、ほかの研究者とともに新たなネットのしくみを発明しました。米国の情報学者ノーマン・エブラムソンが開発した、ハワイ諸島の島々を結ぶ無線ネットワークのしくみの発想を端緒としていました。
メトカーフはこのネットワークに「イーサーネット」と名づけ、研究所の同僚にメモを配ったとされます。
エーテルはかつて、「光は波である」とする波動説を主張するとき、なくてはならない物質とされてきました。「光が波であるのなら、その波が伝わるための媒質がなければ波は届かない」というわけです。エーテルは目には見えないものの、そこいらじゅうに充満していて、光の波を届かせていると考えれられてきました。
ところが、科学者たちはエーテルを正体を探っても、見いだすことができません。
そうしたなか1887年、米国の物理学者アルバート・マイケルソン(1852-1931)と、おなじく米国の物理学者エドワード・モーリー(1838-1923)が、エーテルの存在を証明するための実験をおこないます。エーテルは時間ごとの風の変化の影響を受けるはずだから、それを光線を受ける装置で観測しようとしたのです。予想どおりであれば、観測装置に縞模様が出るはずです。
しかし、実験の結果は、マイケルソンとモーリーの期待に反するものでした。風の変化を示す縞模様は思ったよりも小さく、結局「風速は0」という結論に至りました。
正確を期しておこなった実験で、エーテルの存在を得られませんでした。科学者たちは、「エーテルはないのではないか」と考えるようになりました。マイケルソンとモーリーの実験が、風向きを変える大きなきっかけとなりました。
その後の研究により、エーテルの存在は否定されました。いま、光は、空間そのものを媒質とする電磁波であると考えられています。また、波の性質とともに粒子の性質ももっていると考えられています。
いっぽう、メトカーフは、開発したネットワークのしくみに「あらゆるところに存在し、情報を伝える媒介になるもの」との意味を込めて、「イーサー(エーテル)」と名づけたとされます。
参考資料
平成義塾大学 2011年11月25日付「イーサネットとエーテル」
https://blogs.itmedia.co.jp/heisei2100/2011/11/post-f950.html
日経XTECH 2013年12月9日付「イーサネット40年の技術」
https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20131127/520968/
デジタル大辞泉「エーテル」
https://kotobank.jp/word/エーテル-36876
精選版日本国語大辞典「波動説」
https://kotobank.jp/word/波動説-603177
ウィキペディア「マイケルソン・モーリーの実験」
https://ja.wikipedia.org/wiki/マイケルソン・モーリーの実験
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