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慶應大学が承認したのは「治療」でなく「試験」


慶應義塾大学の岡野栄之教授や中村雅也教授らが研究している、脊髄損傷に対するiPS(人工多能性幹細胞)由来の細胞を用いた再生医療について、慶應義塾大学は(2018年)11月28日(水)、研究計画を審査する学内委員会が27日(火)に研究の実施を「承認」したことを発表しました。

この発表を受け、さまざまな報道機関が記事を出しました。発表のあった11月28日(水)から翌29日(木)の新聞などの見出しを見てみます。

 「世界初、脊髄損傷にiPS 慶大が臨床研究申請へ 学内で承認」(日本経済新聞)
 「脊髄損傷にiPS細胞 研究承認」(時事通信)
 「iPSで脊髄損傷再生 慶大、臨床研究を学内承認 厚労省申請へ」(日刊工業新聞)

いっぽうで「おや」と思わせるような記事の見出しもあります。

 「iPSで脊髄損傷を治療 慶応大が承認、国に申請へ」(朝日新聞)
 「iPS脊髄損傷治療 慶応大が正式了承 来年にも移植」(産経ニュース)
 「iPS細胞を使った脊髄損傷治療を承認」(毎日新聞)

おなじ発表を指したものですが、日本経済新聞など上の三つでは「研究を承認」と読める文言となっていて、下の三つでは「治療を承認」と読める文言となっています。

「研究」と「治療」はちがいます。今回、慶應義塾大学が発表したのは「臨床研究が(学内委員会に)承認を受けた」というもの。臨床研究とは、患者の協力を受け、病気の原因の解明したり、病気の予防や診断や治療を改善したり、患者の生活の質を向上させたりするためにおこなう研究のこと。こうした臨床研究を積みかさねていった結果、「治療をおこなっても安全そうだ」「治療は有効そうだ」ということがわかれば、治療がおこなわていくことになります。

慶應義塾大学は今回の発表で、臨床研究を「新たな治療法の実現を目指す」ものとしています。また、「本臨床研究についてご理解いただきたいこと」として、「今回の臨床研究の主目的は、まず第1に移植細胞および移植方法の安全性を確認することです」としています。

ということで、今回、承認されたのは治療をすることではなく、臨床試験をすることです。

「治療」ということばを見出しに使っている朝日新聞と産経新聞の各記事の本文では、いずれも学内で認められたのは「臨床研究」の実施であることが述べられています。記事の本文では「臨床研究」のことが書かれ、記事の見出しでは「治療」のことが書かれてあることになります。一般的に報道機関では、記事の本文を書く担当と、記事の見出しをつける担当がちがいます。認識のちがいが、こうしたちがいにつながったのかもしれません。

記事を読む多くの人は、まず見出しから見るため、朝日新聞や産経ニュースのこの記事に触れた人は「iPS細胞を使った脊髄損傷の治療が認められたんだ」と捉えることでしょう。

発表によると、今回の臨床研究は、亜急性期とよばれる脊髄損傷を負ってから14日から28日の患者に対し、iPS細胞由来の神経前駆細胞という細胞を移植してみるもの。移植された細胞の安全性や移植方法の安全性を確かめます。また、副次的な目的として、精髄損傷治療における有効性を確かめます。

慶應義塾大学は発表で、「本臨床研究で安全性が確認できた場合、将来の計画として、細胞数を増やすことによる有効性の検討や、『亜急性期脊髄損傷』だけでなく『慢性期脊髄損傷』における安全性や有効性の検討を行いたいと考えております」としています。治療が認められるかどうかが決まるのは、これらの先となります。

参考資料
慶應義塾大学 2018年11月28日発表「『亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療』の臨床研究について」
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2018/11/29/181128-1.pdf
慶應義塾大学病院臨床研究推進センター「臨床研究とは」
https://www.ctr.hosp.keio.ac.jp/patients/about/clinical.html
朝日新聞 2018年11月29日付「iPSで脊髄損傷を治療 慶応大が承認、国に申請へ」
https://www.asahi.com/articles/ASLCY02Q5LCXUBQU017.html
産経ニュース 2018年11月28日付「iPS脊髄損傷治療 慶応大が正式了承 来年にも移植」
https://www.sankei.com/life/news/181128/lif1811280024-n1.html
毎日新聞 2018年11月28日付「慶応大 iPS細胞を使った脊髄損傷治療を承認」
https://mainichi.jp/articles/20181129/k00/00m/040/024000c
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