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昭和の実業家「得手に帆を揚げる」ような職場をよしとす

葛飾北斎「富嶽三十六景 上総ノ海路」

「得手に帆を揚げる」ということわざがあります。「江戸いろはがるた」にも「得手に帆を揚ぐ」などと出ています。

得手とは、「もっとも得意とすること」「もっとも得意とする技」の意味。そうした得手にある状態のときに、「帆を揚げる」つまり、帆船を前に進めるというわけです。こうしたことから、「得手に帆を揚げる」は「自分の得意なことを発揮するよい機会を得て勇んでする」といった意味のことわざとされます。

にたことわざには「追風(おいて)に帆を上げる」があります。ここでは、帆を揚げるのは「得手」でなく「追風」が使われています。「追風に」となると、帆を揚げるというおこないを得意としているというより、どちらかというと帆を揚げるにふさわしい条件が整っているという点に重きが置かれます。

「得手に帆を揚げる」ということばにゆかりのある人物のひとりが、実業家で本田技研工業を創業した本田宗一郎(1906-1991)です。『得手に帆あげて』という書名の著書を1962年に初めて著しました。以後もおなじ書名の著書が8度、出版されています。

本田が述べているのは、職場に滅私奉公のようなつもりできている人と、自分の生活をエンジョイするために真剣にはたらく人はちがうはずであり、後者のほうが仕事に打ちこめるといったことです。

では、企業が、自分の生活をエンジョイするために真剣にはたらく人たちで満たすにはどうすればよいか。本田はつぎのように述べています。

「一人ひとりが、自分の得手不得手を包み隠さず、ハッキリ表明する。石は石でいいんですよ、ダイヤはダイヤでいいんですよ。そして、監督者は部下の得意なものを早くつかんで、伸ばしてやる。適材適所へ配置してやる」

社員あるいは従業員のみなが、不得手でなく、得手なことを伸ばせるように監督者がしむければ、みんなが楽しい人生を送れる、といったことを述べているわけです。得手を発揮する船乗りたちによって帆が揚がり進んでいく船を、企業の姿と合わせていたのでしょう。

「得手に帆を揚げる」ということばそのものは状況を描いたようなものであり、教訓としての要素はありません。しかし、このことばを受けとめた本田は、「得手に帆を揚げる」を体現するような職場をつくるべきだと考えたわけです。

参考資料
大辞林 第三版「得手に帆を揚げる」
https://kotobank.jp/word/得手に帆を揚げる-445504
デジタル大辞泉「追風に帆を上げる」
https://kotobank.jp/word/追風に帆を上げる-448518
庄村長「本田宗一郎の経営論研究所説」
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180903222420.pdf?id=ART0007575603
Honda Cafe「得手に帆を上げ」
https://www.honda-cafe.jp/本田宗一郎ミュージアム/top-talks/得手に帆を上げ/
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