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書評『GRIT やり抜く力』

よく売れているからでしょうか。書店を覗くと続編の「実践版」も出ていますが、まずはこちらから。

『GRIT やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著、神崎朗子訳、ダイヤモンド社、2016年、376ページ


“GRIT”を辞書で引くと「根性」とある。“grit my teeth”で「歯を食いしばって堪える」といった熟語もある。GRITを書名に掲げる本書は“根性論の現代版”といえよう。

人はとかく「天才」(才能)と「努力家」(根性)を、どちらのほうが価値が高いかとくらべる。世間のこれまでの正直な評価は、どちらかといえば「天才」「才能」を高くみるものだった。

だが、心理学者としてグリットを研究する著者はこう述べる。

「才能が人の2倍あっても人の半分しか努力しない人は、たとえスキルの面では互角であろうと、長期間の成果を比較した場合には、努力家タイプの人に圧倒的な差をつけられてしまうだろう」

つまり、才能があっても努力なしでは努力家に後塵を拝するし、また、才能がなくても努力があれば才能あふれる人に優るということだ。

となると、「努力(やり抜く力)は養えるのか」ということを知りたくなる。これについて著者は、過去の双子を対象とする研究などから、「人によって『やり抜く力』の強さに差があるのは、ある程度は遺伝的な要素によるが、経験による部分も大きいことを意味する」と述べる。

努力(やり抜く力)は人生において大切だし、養うこともできると示したうえで、どのようにその力を伸ばしていくかを「やり抜く力」の強い人びとの傾向や証言などを引きあいにして示していく。

その方法として書かれていることは、ごくまっとうなことだ。

たとえば、興味をもてることにとりくむこと。それにより自分の満足度も仕事の業績も高くなるという。

また、自分のスキルを上まわる目標を設け、それを達成する練習を習慣化すること。世界で活躍する「エキスパート」とよばれる人たちが実践していることだ。

さらに、とりくむことが自分より大きな目的とつながっていることを意識すること。「自分がやっていることは世のため人のためになる」と考える人のほうが、「やり抜く力」は高いという。

これらは、「やり抜く力」を得るうえでごくまっとうな方法だ。読者は「あたりまえのことが書かれてある」と思うかもしれない。だが、これらの要点は研究を蓄積したうえで達した結論だろう。論のひとつひとつに根拠や事例を示し、本にまとめて伝えることにはやはり価値がある。

あえて、読後の引っかかりを挙げると、ふたつばかりある。

ひとつは、書名にもあるような「人生の成功」が、なにを意味しているのかがやや曖昧だったこと。高学歴を経ることや、偉人とされるような人物がおこなう偉業あたりのことを指していることは読みとれる。より明確に「成功」とはなにを指すのかを読者に示しておくと、「やり抜く力」がいかに大切であるかがより伝わったのではないか。

また、「やり抜く力」とそれに関連する行為のあいだの関係性についても曖昧なところはあった。「この行為をすれば『やり抜く力』を得られる」という論と、「『やり抜く力』をもっている人はこの行為をしている」という論が混在しているのだ。後者の場合、その行為にがんばってとりくんでも「やり抜く力」を得られるかはわからないということになる。「因」と「果」を明確にするのはかんたんではないこともまたたしかだ。

こうした引っかかりを差しひいても、多くの読者に「やり抜く力」を得ることの大切さが伝わる本となっている。なにより、たくさんの「やり抜く力」の事例に触れることが、読者にとって「やり抜く力」を得ようとさせる刺激になる。

『GRIT やり抜く力』はこちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4478064806

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