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写生は撮影とは異なるもの

絵作者:Diogo Moraes

撮影機能つきのスマートフォンを多くの人が持ちあるいています。だれもが、自分の見ている景色を写真におさめることができるわけです。このイノベーションがあったからこそ、フェイスブックやインスタグラムといった、新しい意思疎通のかたちが広がったわけです。

しかし、だれもがかんたんに撮影できるいまの時代であっても、「写生」つまり眼前の景色を絵に描くという行為はなくなりそうもありません。撮影ではできないけれど、写生であればできるようなことがあるからです。

たしかに、対象となる景色やものを「見る」ということでは撮影も写生も共通しています。けれども、撮影と写生では見ている時間の長さが大きくちがいます。写生をするときは、対象物を見つめつづけたり、何度も見たりしなければなりません。

それだけ詳しく対象物を見るということは、対象物がどんなつくりをしているのかを詳しく理解することにつながります。たとえば、渓流の景色を写生すれば、どのくらいの大きさの岩があるか、岩の置かれかたによってどのように水が流れているか、どのくらいの速さで水が流れているか、といったことを掴むことができます。そこで得られた情報は、写生をしたものを模型にするといった目的でも役立つでしょうし、観察力を養うといった能力向上にもつながるものとなります。

また、写生をすることは、対象物の特徴を明らかにすることにもつながります。写真撮影とちがって、眼前の景色のすべてを写生で表現することはできません。そのため、写生するときは必然的に、対象物の特徴的な部分を選んで拾って、それを絵にしていくことになります。つまり、写生をとおして、対象物のなかで伝えるべき部分を明確にすることができるわけです。その成果は、つぎの段階として絵画や模型などをつくる場合、デフォルメの作業に活かせます。

また、抽象的ではありますが、写生をすることにより、対象物と長く向きあうことになるため、対象物に対する記憶や印象の度合を高めたり、思いいれを強めたりすることにもつながります。こうした、印象や記憶、また思いいれは、創作の源にもなりうるものです。

複数の人が、作品づくりに携わっているような場合は、写生した絵が、みんなで分かちあう設計図のような役割を果たすことにもなります。人それぞれの頭にある完成形のイメージがばらばらなままだと、完成品の精度や統一性にも高まりづらいもの。しかし、写生で絵が描けていれば、みんながその描かれてある絵を完成イメージとして共有することができます。

写生を手段でなく目的とする人もいることでしょう。つまり、写生している時間を「楽しい」と感じ、描いたものに満足するわけです。撮影でもおなじように「楽しい」と感じる人もいるでしょうが、自分で手を動かして絵にしていくという点は、写生ならではの楽しさといえます。

撮影でなく写生をすることの目的や意義は、これほどさまざま。一見、撮影と写生はおなじような行為に捉えられがちですが、じつは根本的に内容の異なる行為と捉えるべきものといえそうです。

参考資料
3dtotal.jp 2017年1月27日付「特集 スケッチを上達するための10の心得」
https://3dtotal.jp/features/3339/
西川悠子「観察時における学習効果を上げるためのスケッチの研究」
https://aue.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=5168&item_no=1&page_id=13&block_id=21
清須市はるひ美術館 館長ブログ 2013年4月4日付「スケッチすることは、スケッチ画を作ることではない。」
http://museum-kiyosu.jp/blog/blog/2013/04/04/april-4-2013-スケッチすることは、スケッチ画を作ること/
増成和敏『プロダクトデザインのためのスケッチワーク』
https://www.amazon.co.jp/dp/4274069281/
ゆる〜く嗜む鉄道模型「スケッチを描く」
http://moritetsu.info/model-railway/a-layout-is-made/a-sketch-is-drawn/
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