科学技術のアネクドート

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受けいれる相手を見つけて薬の開発に
ヒトの体には「孤児」の存在がたくさんあるといいます。ここでの「孤児」は「相手が見つかっていない存在」といった意味になりますが。

細胞の膜あるいは細胞の内側には「受容体」とよばれる、おもにタンパク質でなる物質があります。受容体は、その名からわかるように、ほかの物質を「受容」する物質のこと。そして、受容体がほかの物質を「受容」したときには、鍵穴に鍵が刺さって扉が開くのと同様に、細胞の機能に変化を生じさせます。

受容体のなかには、まだ、受容する相手の物質がどんなものかわかっていないものがあります。このような「相手が見つかってない受容体」を「孤児受容体」というのです。英語で「孤児」を意味する「オーファン」を使って「オーファン受容体」ということもあります。

また、受容体が受容する「相手」のことを「リガンド」といいます。リガンドは、ラテン語で「結合」を意味する“ligandum”からきているといいます。

受容体やリガンドを対象とする生命科学の研究では、かつては「まず、リガンドにあたる物質が見つかり、その後、その受容体が見つかる」という順番が主流でした。ホルモンが発見されてから、その受容体が見つかる、といった具合に。

しかし、研究が進むと、「まず、新たな受容体が見つかり、その後、リガンドが見つかる」という順番が増えてきました。この変化の背景には、遺伝子情報を調べる技術の進歩があります。すでに知られている受容体が形づくられるための遺伝子情報が詳しく調べられ、受容体がつくられる基本的なしくみがわかってきました。そのしくみを手がかりに、「このタンパク質も、受容体をつくる遺伝子が携わっているから、きっと受容体なのだろう」といったふうにして、受容体がつぎつぎと発見されていったのです。

ただし、そうして見つかった受容体では、まだ相手として受容するリガンドは見つかっていません。つまり、リガンドより先に見つかった受容体は、「孤児受容体」として見つかるのです。

「孤児受容体」のなかでも、研究者や製薬企業などがとくに注目しているのが「Gタンパク質共役型受容体」(GPCR:G Protein-Coupled Receptor)とよばれる受容体です。これは、ただ1種類の受容体ではなく、「細胞膜上にあって、細胞膜を7回貫通する」といった特徴で括られる受容体で、ヒトでは800種類以上あるといいます。


Gタンパク質共役型受容体のつくりの例。上側が細胞の外、下側が細胞の内。
図作者:Boghog2 

じつは、これまで開発されてきた薬の多くが、このGタンパク質共役型受容体に結びついて作用するしくみをもっています。まだ、800種類以上あるGタンパク質共役型受容体のうち、かなりの数が「孤児受容体」であるため、研究者や製薬企業などは、その相手として結びつくリガンドを見つけ、そのつくりを模倣することで新たな薬を生みだそとしているわけです。

それにしても、「孤児受容体」ということばに違和感を覚える人も多いのではないでしょうか。リガンドを受容する受容体のほうがむしろ「親っぽい」と感じる人もいるかもしれません。そもそも、受容体のリガンドを見つけることができていない人間が、勝手にその受容体を「孤児」とよんでいるだけの話でもありす。たとえを使わず「リガンド未発見受容体」とすると、長ったらしいでしょうか。

参考資料
研究.net 研究用語辞典「オーファン受容体」
http://www.kenq.net/dic/44.html
東北大学、東京大学、愛媛大学、科学技術振興機構 2012年9月17日発表「Gタンパク質共役型受容体の活性化を網羅的に検出する手法を確立」
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20120918/index.html#YOUGO1
週末京都「ligandの語源」
http://d.hatena.ne.jp/keybot/20091011/1255268473
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