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標準との差から過去のことを推しはかる


ふたつのおなじようなものがあるとき、いっぽうを標準にして、「標準よりこちらはこれだけ高い」「これだけ大きい」「これだけ広い」などと差を出すことがあります。そして、その差がどのくらいかを見て「こういうことだろう」と推しはかることがあります。

たとえば、人の体温はだいたい36度とされているので、これを標準にします。いっぽう、体温計で体温をはかったところ、37度5分あったとします。すると「微熱があるな。風邪のひきはじめかな」などを推しはかれるわけです。あるいは、39度5分もあったら「こんな高熱が出ているとは、インフルエンザかも」と推しはかれます。

つまり、標準との差は、ものごとを推しはかるための情報になるわけです。

この原理とおなじようなことが、「安定同位体の存在割合の分析」という技術で使われています。

「同位体」というのは、おなじ元素に属していながら、中性子と陽子の個数の和である質量数が異なる原子のこと。そこに「安定」がつくのは、この同位体が安定しているからです。つまり、放射線を出してじょじょに崩壊していく放射性同位体ではなく、放射線を出さないで自分自身は安定している同位体を「安定同位体」といいます。

それぞれの元素の安定同位体については、自然界における平均の比率が定められています。たとえば、酸素の安定同位体については、陽子8個と中性子8個をもつ質量数16のものが海水では99.763パーセントを占めています。いっぽう、陽子8個と中性子9個をもつ質量数17の酸素安定同位体は海水で0.037パーセント。また陽子8個と中性子10個をもつ質量数18の酸素安定同位体は海水で0.2パーセントだけあります。

これらの値から、酸素安定同位体の標準的な割合を出すことができます。たとえば、質量数16の酸素と、質量数18の酸素の比は99.763対0.2。ここから、「99.763分の0.2」つまり「0.0020047513」を標準の値とすることができます。

この値はあくまで標準の値。実際の海では、場所によって、この標準の値とは異なる酸素同位体の割合になっていることもあります。

たとえば、標準の「0.0020047513」よりも、質量数18の酸素の割合が高くなれば「0.002005」といった値が出てくることもありえますし、質量数18の酸素の割合が低くなれば「0.002003」といった値が出てくることもありえます。

つまり、ここでは標準の値との差がどのくらいかを求めているわけです。

その差が求まったら作業終了、ということでは、あまり差の求めがいがありません。その差から、推しはかることができるものがあるからこそ、安定同位体の割合の差を求めるわけです。

では、酸素の安定同位体の割合からなにが推しはかれるかというと、おもなものは海水の温度。さきほどの質量数16の酸素と質量数18の酸素の比でいうと、質量数18の酸素が標準より多いほど、海水温は低くなる傾向にあります。いっぽう、質量数18の酸素が標準よりすくないほど、海水温は高くなる傾向にあります。

研究者たちにとって便利なことに、過去のある特定の時点と場所における安定同位体の割合が、いまに保存されていている場合があります。たとえば、サンゴの化石を調べれば、質量数18の酸素が標準より多い部分やすくない部分があり、その結果により、「この時代の海は冷たかった」とか「温かかった」といった環境が推しはかれるのです。

標準の安定同位体の割合がわかっていること、過去の時点での割合がいま保存されていること、そして割合を分析技術で割りだせること。これらが揃っているため、安定同位体の存在割合の分析により、研究者たちは過去のことを推しはかることができるわけです。

参考資料
同位体研究所「安定同位体の組成を比較するには・・・安定同位体比」
http://www.isotope.sc/cn8/tech_02.html
山形大学理学部地球環境学科 希ガス・放射年代学研究室「海水中の酸素同位体の変動と気候変化」
http://ksgeo.kj.yamagata-u.ac.jp/~kazsan/class/chronology/oxygen-isotopes.html
茅根創「サンゴが語る過去の気候変動」
http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2007/2007_05_0043.pdf
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