科学技術のアネクドート

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「挿し枝」から「遺伝子の分け増やし」へ

「クローン」ということばから、多くの人びとは「まったくおなじものの複製」といったことを想像することでしょう。インターネットで「クローン」を画像検索すると、ヒツジ、イヌ、サル、ネコ、プーチン大統領などが二つ並んでいる姿を表した画像が並びます。

しかし、「クローン」は、ただたんに「ほんものそっくりの複製品」といった意味をもつだけではありません。

もともと「クローン」は造語でした。1903年、米国の植物生理学者ハーバート・ジョン・ウェバーが、ギリシャ語で「小枝」を意味する“klon”から、“clon”という語をつくりました。ウェバーは、増やす目的で折られた植物の「小枝」あるいは「挿し枝」を指して、“clon”を使ったようです。いまでは「クローン」は“clone”と綴るほうが多くなりましたが。


ハーバード・ジョン・ウェバー

当初、ウェッバーは、「血統」などの意味をもつ“strain”と、「幽霊」を意味する“wraith”を組みあわせた“straith”という造語も頭のなかにあったようですが、“clon”あるいは“clone”がまさったようです。

この由来からすると、枝や芽などを切って、それを接ぎ木や挿し木して、もとの植物を増やすといった意味あいが、「クローン」では強かったといえそうです。サクラのソメイヨシノも接ぎ木によって増えていったので、「クローン」の典型例といえます。


ソメイヨシノの並木

接ぎ木や挿し木や挿し木によって育った木は、必然的に、もとの生きものとおなじ遺伝子をもっていることになります。そうした点から、「クローン」には「おなじ遺伝子をもつ個体」といった意味もあたえられています。

サイエンスフィクション作品や、1997年に英国で遺伝子工学技術により誕生したヒツジ「ドリー」に対してもつ「クローン」の語感は「おなじ遺伝子をもつ個体」といったものではないでしょうか。


クローンヒツジ「ドリー」の剥製

さらに、「クローン」の動詞としての要素を強調させて「クローニング」(cloning)といったことばも使われるようになりました。「ドリー」のように、ひとつの個体ないし細胞から、まったくおなじ遺伝子構成をもつ個体ないし細胞をつくることを指します。

さらに、そこから転じて、分子生物学者たちは、「ある特定の遺伝子だけを分けて取りだし、それを増やす」といった意味あいでも「クローニング」あるいは「クローンする」といったことばを使うようになりました。この意味での『クローニング」を、ていねいに「遺伝子クローニング」とよぶこともあります。

このような、ことばの生じかたと使われかたの変遷をたどると、「クローン」は、「枝を分けて育てる」といった農業分野の実用的な意味から、「遺伝子を分けて増やす」といった分子生物学分野の学術的な意味に、発展してきていることがうかがえます。

参考資料
National Public Radio 2011年3月11日付 “Science Diction: The Origin Of The Word 'Clone' ”
https://www.npr.org/2011/03/11/134459358/Science-Diction-The-Origin-Of-The-Word-Clone
デジタル大辞泉「クローン」
https://kotobank.jp/word/クローン-3064
栄養・生化学辞典「クローニング」
https://kotobank.jp/word/クローニング-486991
ウィキペディア「クローニング」
https://ja.wikipedia.org/wiki/クローニング
PATHWAYS “Gene Cloning”
https://www.pathwayz.org/Tree/Plain/GENE+CLONING

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