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「みどりの学術賞2018」篠崎和子さん、植物の環境ストレス応答のしくみを解明

植物研究のモデルによく使われる「シロイヌナズナ」
写真作者:Norio Nomura

きのう(2018年)5月4日(金祝)付のこのブログでは、2018年度の「みどりの学術賞」の受賞者のひとり、熊谷洋一さんの業績などを、内閣府のサイトにある「受賞者プロフィール」をもとに記しました。

きょう5日(土祝)は、2018年度のもうひとりの受賞者である東京大学大学院農学生命科学研究科教授の篠崎和子さんの業績を、おなじく「受賞者プロフィール」からたどります。

篠崎さんの受賞は、「植物の環境ストレス応答機構の解明と耐性作物の開発」に対してのもの。これは、植物たちが身のまわりのストレスに対して応じるときのしくみを解きあかし、それを活かしてストレスに強い作物をつくった、といった研究内容といえそうです。

植物たちは、基本的にはみずからの居場所を移すことなく、じっとそこにとどまっているわけですから、低温、高温、乾燥、それに塩などのストレス要因にさらされたとき、自分の体のなかでそれらにうまく対応するしくみをもっていることが、生きのびるうえではとても重要になります。

篠崎さんは、植物の遺伝子や、遺伝子がはたらくためのしかけがどうなっているかに注目したようです。そして、デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)の塩基配列のなかにある、2種類の「転写調節因子」とよばれる部分の正体をつきとめます。その転写調節因子は「DREB1」(Dehydration Responsive Element Binding protein-1)と「DREB2」とよばれるもの。日本語では「乾燥応答領域結合タンパク質因子」などとよばれます。篠崎さんは、植物がストレスを受けるとき、これらの因子がつくられて、環境ストレスに応答する遺伝子が発現するといったしくみを見いだのです。

また、DREB1やDREB2とはべつに、篠崎さんは「AREB」(Abscisic acid-Responsive Element Binding protein)とよばれる転写調節因子も見つけています。こちらは、日本語にすると「アブシシン酸応答領域結合タンパク質因子」となるでしょうか。「アブシシン酸」とは、植物が環境ストレスを受けたときに体のなかで放出するホルモン。このアブシシン酸が体に出たとき、AREBがはたらいて、ストレス環境に応答する遺伝子を発現させるわけです。

篠崎さんは、夫の一雄さんらとともに、2000年には、「乾燥と高塩分の環境下におけるアブシシン酸由来のシグナル伝達経路に関するシロイヌナズナの基本ロイシンジッパー転写因子」という論文で、乾燥応答にはAREBが必要とされるということを述べています。

こうした研究は、植物が身のまわりでストレスを受けたとき、どのようなしくみで応答し、生きのびようとするかを詳らかにしたものといえます。そうしたことが遺伝子のレベルで解明されたということは、過酷な環境の土地においても耐性のある作物をつくりだすことにつながります。

篠崎さんは、環境ストレス耐性作物を開発するためのさまざまな国際的な事業で、イネ、コムギ、トウモロコシ、トマト、ダイズ・イモ・牧草など作物に、DREB1、DREB2、AREBなどの遺伝子を取りいれていったとのこと。「海外では野外の農場で栽培実験が進められている」そうです。

自然科学の研究では、よく、自然のしくみを知的好奇心から探っていく基礎研究と、知見を社会に役立てることにつなげる応用研究の側面があるといわれます。そして「基礎の研究者」や「応用の研究者」といわれるように、人びとは、その研究者がどちらの分野に根ざしているかを見定めようとします。

そうしたなか、篠崎さんは、いわゆる基礎研究と、いわゆる応用研究の両方の分野に貢献しました。生命科学への貢献と、農学への貢献ともいえるかもしれません。ただし、そうした分けへだては、まわりの人が言っているだけのことで、そうした視点とは異なる視点をもっているのかもしれません。

参考資料
内閣府「第12回みどりの学術賞 受賞者プロフィール」
http://www.cao.go.jp/midorisho/gakujutsusho/profile_shinozaki.html
Yamaguchi-Shinozaki K et al. “Arabidopsis basic leucine zipper transcription factors involved in an abscisic acid-dependent signal transduction pathway under drought and high-salinity conditions.”
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11005831
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