科学技術のアネクドート

<< 青で「出発」赤茶で「到着」、長距離ながら疲れづらく | main | ゴルフの素振りは見かけるが、相撲の立ちあいのしぐさは見かけない >>
「椿の湯」に「十年の汗を道後の温泉に洗へ」



愛媛・道後湯之町にある道後温泉には三つの共同浴場があります。1894(明治27)年より建てられた趣のある「本館」はよく知られるもの。いっぽう、最近では2017年9月に「飛鳥の湯」が完成し話題をよびました。

もう一つあるのが、飛鳥の湯のすぐとなりにある「椿の湯」。1953(昭和28)年に建てられ、1984(昭和59)年に改築されました。さらに、2017年12月に改修されています。

伝統の「本館」、真新しい「飛鳥の湯」にくらべると、やや影の薄い存在になってしまったものの、三つの館のなかではもっとも安い400円で入浴ができます(ロッカー使用量がべつに10円かかります)。

男湯の浴室の大理石でできた湯口に刻まれているのは、松山市出身の俳人・正岡子規のつぎの句。

「十年の汗を道後の温泉(ゆ)に洗へ」

野球を愛していた正岡子規。「草野球をしつづけて10年も経験を積んだら、道後温泉で汗を洗ってさっぱりしなされ」とでも言わんとしているのかというと、そうではないようです。

この句は1896(明治29)年、子規が30歳のときに詠んだもの。子規の2年後輩で、おなじ松山出身で言語学者の小川尚義(1869-1947)が、台湾から帰国しました。小川は同年、東京文科大学を卒業後、台湾総督府学務部につとめました。

この句が記されている『寒山落木』には、句の前につぎのような文もあります。

「小川氏大學を卒へて帰國するよし聞きて申遣す」

日本に帰ってくる小川に対して、道後温泉に入って「十年の汗」を洗え、とことばを贈っているわけです。子規と小川が親しくなったのは1887(明治20)年。この年、小川は第一高等中学校予科に入学しています。1889(明治22)年には脚気を患って休学したことも。大学の卒業までに至るおよそ10年の小川の労苦をねぎらったようにもとれます。

子規自身も、この句を詠む前年の1895(明治28)年、帰国途上船中で喀血して入院するなどし、病を抱える身でした。句を詠んだ年には脊椎カリエスと診断されています。

「10年かけてかいた汗」でなくとも、子規から疲れた体を「温泉に洗へ」と言われたと考えると、ちょっと癒やされた気もちになるでしょうか。温泉はぽかぽかですから、夏場などは湯あがりに結局また汗をかくことになりますが……。

参考資料
吟行ナビえひめ「十年の汗を道後の温泉尓洗へ」
https://www.iyokannet.jp/ginkou/spot/detail/kuhi_id/554
愛媛県生涯学習センター「データベース『えひめの記憶』」
http://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:1/5/view/1017
正岡子規会「正岡子規 略年譜」
https://matsuyamashikikai.jimdo.com/正岡子規の略年譜/
WebM旅「十年の汗を道後の温泉に洗へ」
http://www.webmtabi.jp/201009/famous/mshm29026402.html
ウィキペディア「小川尚義」
https://ja.wikipedia.org/wiki/小川尚義

| - | 16:13 | comments(0) | trackbacks(0)
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sci-tech.jugem.jp/trackback/4569
トラックバック
CALENDAR
S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< September 2018 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
  • アナウンサーも日常的に「やつ」
    ★ (08/03)
  • “遅れて来た”日産自動車、“満を持して”リーフ
    うぼで (06/13)
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE