科学技術のアネクドート

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「科学にもとづく目標」でもとづくのは「2度シナリオ」

写真作者:ricky artigas

医療の世界では、「根拠にもとづく医療」(EBM:Evidenced Based Medicine)という考えかたが、とくに2000代に入ってから、医師などのあいだで重きをおかれるようになってきました。医師の経験や主観でなく、論文で認められているなどの科学的根拠にもとづいて医療をおこなうことをさします。

医療は人の病気を治す技術のことですが、地球の環境をよい状況にするための方法をめぐっても、ちかごろは「根拠」があることに重きが置かれるようになってきています。

自然環境の保護をめざす世界自然保護基金(WWF:World Wildlife Fund)や、 地球環境問題などについての政策を研究したり技術の支援をしたりする世界資源研究所(WRI:World Resource Institute)などの国際的な組織は「科学にもとづく目標イニシアチブ」(SBTi:Science Based Target initiative)というとりくみを2015年に、共同ではじめました。

このとりくみそのもには、メキシコのカンクンで2010年に開かれた気候変動枠組条約第16回締約国会議の決定文書に書かれた「産業化前からの地球平均気温上昇を2度ないし1.5度以下に抑制し、それを可能にする2013年以降の国際枠組みを構築し、機能させることを目指す」という記述をきっかけとするもの。地球の平均気温の上昇を産業革命前にくらべて2度までに抑えるための活動を企業にうながします。

具体的には、これにとりくむ企業は、「実行意思表明文書を提示する」「目標を設定する」「妥当性確認のための目標を提示する」「目標を広報する」といった段階を経ていくことになります。2018年3月上旬の時点で、世界の670の企業がイニシアチブに参加しているといいます。

では、地球平均気温の上昇を産業革命前にくらべて2度までに抑えるための「科学にもとづく目標」とは具体的にはなにをさすのでしょうか。

「科学にもとづく目標イニシアチブ」で開発された方法として「部門別脱炭素化手法」(SDA:Sectoral Decarbonization Approach)という方法があります。

イニシアチブの公式文書である「科学にもとづく目標 第1版」には、「この手法は、国際エネルギー機関が2014年に技術展望報告書でモデルとされた二酸化炭素部門別シナリオの『2度シナリオ』にもとづくものである。報告書の試算は、気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書からの『代表濃度経路2.6シナリオ』と一致するもので、それは2100年における世界が目標とする気温上昇2度未満にもっとも高い可能性をあたえている。同パネルによるその実現可能性は最低でも66パーセント。国際エネルギー機関の2度シナリオは、2050年までの総炭素収支として、二酸化炭素換算で1兆550億トンと見つもっている」としています。

「2度シナリオ」そして「代表濃度経路2.6シナリオ」とあるのは、気候変動に関する政府間パネルの第5次評価報告書で示された4種類のシナリオのうち、もっとも地球温暖化が抑えられる場合を想定してのシナリオです。

上の説明からすると、「部門別脱炭素化手法」は、国際的に信頼されている国際機関がこれまでに示している気温上昇抑制の目標を基本にしているわけです。そして同文書によると、企業活動を構成する「農業、林業、土地利用」「建設」「輸送」「生産」「ほかのエネルギー」「発電・発熱」といった部門に分けて目標達成を考えることを提案しています。

なお、同イニシアチブでは、この部門別脱炭素化手法を強く推しすすめているものの、すでに国際的に普及している手法を受けいれる姿勢を示しているといいます。

いまのところ、「科学にもとづく目標」は、手法の内容よりも企業のとりくみのほうを指すことばとして捉えられる向きが大きいようでもあります。しかし、とりくむからには「科学にもとづく根拠をもつ」ということは基本的に大切なこと。よって、手法の内容についても大切にすべきことといえます。

参考資料
EICネット「世界資源研究所」
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=1515
環境省・みずほ情報総研「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_20180306.pdf
みずほ総合研究所「『パリ協定』と『SBT』」
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/1115.html
サステナブル・ジャパン 2017年8月7日付「SBTイニシアチブとは何か 科学的根拠に基づく二酸化炭素排出量削減目標」
https://sustainablejapan.jp/2017/08/07/sbt-initiative/26580
the Science Based Targets Initiative “Science Based Target version 1”
https://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2015/05/Sectoral-Decarbonization-Approach-Report.pdf
世界自然保護基金「地球温暖化についてのIPCCの予想シナリオ」
https://www.wwf.or.jp/activities/2015/08/1278424.html
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