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語源の捉えかたもだが「生前」の使いかたがむずかしい


「生前」ということばがあります。「死んだ人がまだ生きていたとき」や「存命中」といった意味のことばで、「祖母が生前好きだった花を買った」のように、「生前」を副詞的に使うこともあります。

「死ぬ前のことなんだから『生前』はおかしい。むしろ『死前』がふさわしいのでは」と考える人もいます。使われている「生」「前」「死」といった文字の意味からすると、たしかにそう考えるほうがむしろ自然といえるかもしれません。

古語辞典などには「生前」の「生」とは「往生」つまり「この世を去って、ほかの世界に生まれかわること」を指すのであるという指摘もあるようです。「往生する前」と考えれば、「生前」もおかしくはなりません。

「生前」を記事の原稿などに使うときには、ややむずかしさがあります。だれかのおこなったことや状態ことについて「生前」と使うと「当然ではないか」と捉えられうるからです。

たとえば、上の「祖母が生前好きだった花を買った」についていえば、この「祖母」が往生した死後の世界でどんな花を好きでいるかは、生きている人びとにはわかりえません。ですので、「生前」をつけなくても、「花」を指すのが祖母が生きていたころに好きだったその「花」であることは自明のこととなるわけです。

たしかに、「生前」とつけることによって、その「祖母」は故人であるという情報が加わりはします。しかし、「亡くなった祖母が好きだった花を買った」とすれば故人であることは伝わるし、あるいは「祖母が好きだった花を買った」であっても過去形の表現になっているので、伝わらなくもありません。

いっぽうで、「生前」に続くおこなったことや状態のことばが、その故人を主体としないとすれば、「生前」を使う意味が明確に出てきます。

たとえば、「A氏の生前に出版されていた本が、没後30年の今年、復刊されることとなった」という文の場合です。「生前」に続く「出版された」ということばの主体は「A氏」でなく「本」です。こうであれば、「A氏が生きていたときに出版された」という情報を「生前」ということばを使って表すことの意味が強くなります。

「生前」ということばが使われる記事は、書く人が故人に想いを馳せることでつくられるもの。その馳せる想いは、記事を読んでいる読者にも伝わってきます。

参考資料
デジタル大辞泉「生前」
https://kotobank.jp/word/生前-532321
知らずに使っている「仏教の言葉」〜心の縁側「『生前』という言葉」
https://ameblo.jp/engawae/entry-10240406112.html
教えて!goo「生前・死後」
https://oshiete.goo.ne.jp/qa/85386.html
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