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人間の営みのなかにも“突然変異”


生きものは「突然変異」を起こします。突然変異の本質は、“からだの設計図”ともいわれる遺伝子の質や量が変わること。たいていは、親から子へ遺伝子が受けつがれるときに生じる遺伝子の変化のことを指します。ただし、ひとつの個体の細胞が分裂するとときに生じる遺伝子の変化を指すこともあり、こちらは「体細胞突然変異」ともよばれます。

突然変異という自然のしくみを唱えたのは、オランダの植物学者だったユーゴー・ド・フリース(1848-1935)。アカバナ科の植物オオマツヨイグサの栽培実験を通して、その存在があることに気づいたとされます。

生物にとって、あるいは生物学者にとって突然変異が重要なのは、それが進化の原動力になると考えられるからです。

たとえば、ある生きものの個体に突然変異が生じ、突然変異しなかった個体の1.2倍ほど環境を生きのびやすくなったとすれば、実際その突然変異個体はほかの個体よりも生きのびられたかもしれません。その突然変異個体の遺伝子が、次世代の遺伝子に引きつがれれば、より突然変異の遺伝子をもった個体が生きのびるでしょう。

こうして、じょじょに、生きのびるのに有利な遺伝子をもった個体が増えていき、いつしかその突然変異個体が多数派になっていくことがあるわけです。これが、生きものの世界における進化の原動力であると考えられています。

突然変異は、生きものの遺伝子の変化をさす生物学のことばです。しかし、遺伝子の突然変異とおなじようなことは、自然世界でなくとも生じていると考えられます。

人間が生みだした「言語」による伝達では、突然変異的なことがらがしばしば起きます。

たとえば「役不足」は、「能力に対して役目が軽すぎること」を指したことばでしたが、いつかだれかが「能力に対して役目が重いこと」だと勘ちがいして、逆の意味で使ったのでしょう。そして、それが広がっていまでは、誤用されることのほうがむしろ多くなりました。ことばの意味の“突然変異”が起きた結果です(誤用が同時多発的に生じた可能性はありますが)。

個人がもっている「技」の上達においても、突然変異的なできごとがかかわることがあります。

たとえば、ある野球投手が制球が定まらないと苦しんでいたとします。練習で何千球も球を投げても、球は捕手のミットの位置とは異なるところばかりに行ってしまいます。

それでも、この投手は投げこみを続けました。すると、ある日、偶然にもいつもとすこしだけ異なる投球姿勢をとって球を投げる機会が生じました。たまたま強い風が吹いて、姿勢がすこし前のめりになったのかもしれません。

すこしだけ異なるフォームで投げた球は、捕手のミットの位置に寸分たがわず入っていきました。「あれ。球がミットに入っていった」と感じた投手は、つぎは意識的に姿勢をすこし前のめりにして投げました。「あれ。また球がミットに入っていった」。

この瞬間、この投手は制球難から脱することができたのです。この投手の投球姿勢において“突然変異”が起き、その後この投手は「制球のよい投手」になっていったのでした。

「進化」と「進歩」は、にているけれど異なるものといいます。大きくいうと「進化」は自然の世界における生きものたち変化を表すものであるのに対して、「進歩」は人間の社会における技術などの改良をあらわすもの、と。

しかし、ときに人間の社会における技術というものも、その人が意図して改良しようとしたわけでなく、 “突然変異”の結果として改良が生じた、という場合はあるものです。「偶然」や「セレンディピティ」とよばれるものごとに近いかもしれませんが。

自然世界における突然変異は、人がそれに気づくまでなかなか見つからないもの。いっぽう人間社会における“突然変異”は、人が気づきやすいものだし、ことばで説明しやすいもの。

人間がもたらす数々の「進歩」のなかでも、“突然変異”で生じたものに目をつけてみるのはおもしろいことです。

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「突然変異」
https://kotobank.jp/word/突然変異-105385
ウィキペディア「ユーゴー・ド・フリース」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ユーゴー・ド・フリース
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