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2017年の科学の画期的成果、ヒトを知ることにつながる発見が続々と


米国科学振興協会(AAAS:American Association for the Advancement of Science)は、発行する雑誌『サイエンス』で、「2017年の科学における画期的成果」(2017 Breakthrough of the Year)を12月21日に発表しました。

きのうこのブログで紹介した第1位「宇宙における合体」のほかに、「次点」として九つの成果が選ばれています。

「生命を原子の寸法で」。クライオ電子顕微鏡とよばれる顕微鏡が研究者たちのあいだで本格的に使われるようになり、相互作用している最中の複雑な分子群の画像が得られるようになりました。「クライオ」とは「超低温の」といった意味。この顕微鏡は、対象物をありのままの姿で凍らせて、分子の相互作用などが起きている瞬間を捉えることができます。

「恥ずかしがりの素粒子を見つける小さな検出器」。電子レンジぐらいの大きさしかないニュートリノ検出器を研究者が使うようになりました。自然界には電子をふくめ数種類の素粒子が存在しますが、ニュートリノはとりわけ見つけづらい素粒子とされます。2017年81人が協力して結成した「コヒーレント」が、ニュートリノのコヒーレント散乱という現象を、この小さな検出器で観察することに成功しました。この検出器には、ナトリウムを混入したヨウ化セシウムでつくった結晶が使われています。

「ホモ・サピエンスのより深遠な源流」。1961年にモロッコの洞窟で発見されていたホモ・サピエンス、つまりヒトの頭の化石が、発掘されたなかでは最古のものであるとわかりました。研究者たちは、30万年前のものと決定。これは、前にエチオピアで発掘されたホモ・サピエンスの頭の化石より10万年も古いものとなります。

「ピンポイントのゲノム編集」。6万以上の遺伝子異常が人間の病気にかかわり、そのうち3万5000近くは、ただ1個の塩基の異常により引きおこされているとされます。こうした遺伝子異常により生じる病気の治療に向けて、2017年、研究者たちは「塩基編集」とよばれる技術を進歩させました。デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)またはリボ核酸(RNA:RiboNucleic Acid)のなかに含まれる1個の塩基の異常を正常に直すことができるといいます。遺伝子に対して高い精度で切ったり、新たな塩基を入れたりする「ゲノム編集」とよばれる技術が進んでいますが、「塩基編集」はゲノム編集の新たな一種と位置づけられます。

「生物学のプレプリントが発進」。これは科学の制度についての話。生物学者たちは「プレプリント」とよばれるしくみを使いはじめました。プレプリントとは、研究者が書いた論文の原稿を、ピアとよばれる査読者たちに読まれるまえに、インターネットのサーバに上げ、より多くの人たちに読んでもらって指摘を受けるしくみを指します。発端は2013年に、米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所が「バイオアーカイブ」というリプリントのサーバを設置したこと。発表論文のデータベースである「パブメド」上にある約10万本の生物学の論文のうち、1.5パーセントが「バイオマーカー」をふくむサーバにリプリントとして上げられているそうです。なお、物理学では7割という高割合でプレプリントを通しているとのこと。

「がん治療薬の幅広い打撃」。がん治療薬は、これまで「からだのどの部位に効き目があるか」をもとにつくられてきました。新たに「デオキシリボ核酸(DNA)のどの部分に効き目があるか」という考えかたにもとづく治療薬が開発されました。この薬はメルクが開発した「ペムブロリズマブ」。商品名は「キイトルーダ」。2017年5月に米国食品健康局が承認しました。がん細胞が免疫にブレーキをかける「免疫チェックポイント阻害剤」とよばれる新型のがん治療薬です。

「大型類人猿の新種」。大型類人猿の新種がひさびさに見つかりました。インドネシアのスマトラ島内、人間のきわめてすくない場所でのこと。「ポンゴ・タパヌリエンシス(タパヌリ・オランウータン)」と名づけられました。大型類人猿が発見されたのは1929年のボノボ。それから88年後の発見となります。解説記事では「家族にようこそいらっしゃい」としています。

「270万年前の地球の空気」。米国のプリンストン大学とメイン大学の研究者たちは2017年8月、南極で270万年前に凍った氷を取りだしたと発表しました。これまでに取り出されていた最古の氷よりも170万年前も古いもので、地球の気候史上、きわめて重要な期間における「直接的な空気の記録」となります。研究者たちは、500万年前の氷を取ることにも期待しているようです。

「遺伝子治療の躍進」。致死性の遺伝性神経筋疾患をもって生まれた赤ちゃんたちが、欠損していた遺伝子を脊髄神経に加える治療によって救われました。もし、治療が施されなければ、2歳で死んでいただろうとのこと。この治療は、血液感染性の病原体や毒素から、脳や脊髄を保護する膜を貫通して新たな遺伝子を届けることがでいたという点でも画期的だったと、記事は評しています。

2017年は、自然人類学の分野での成果や、遺伝子にかかわる分野での成果が目立ちます。広くは、ヒトのことをより深く知ることにつながる成果ともいえそうです。

なお、今年は「失敗」(Breakdowns)という項目も用意されています。選ばれたのは、ドナルド・トランプ大統領と米国の研究者の関係悪化を示した「トランプと科学者、やばい隔絶」、また、コガシラネズミイルカが絶滅の危機に貧している状況などを伝える「鯨類にとっての厄年」、そして、9月に2人の女性研究者が米国のソーク研究所に性的嫌がらせをめぐって訴えを起こしたことを伝える「私も! 科学における性的ハラスメント」の三つ。これらも言及せずにはいられなかったのでしょう。

2018年は、どのような1年になるのでしょうか。

『サイエンス』2017年の科学における画期的成果と失敗を伝える記事はこちらです(英文)。
http://vis.sciencemag.org/breakthrough2017/finalists/#cosmic-convergence

参考資料
ブリタニカ国際大百科事典「素粒子」
https://kotobank.jp/word/素粒子-90424
エナゴ学術英語アカデミー「生命科学分野は『プレプリント』を導入すべき?」
https://www.enago.jp/academy/preprint/
国立がん研究センターがん情報サービス「免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
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