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「与作」で伝えたいことはおそらく「『与作』という木こりは働きものだ」


「与作」という歌があります。作曲と作詞は七澤公典。歌は北島三郎。1978年にレコードなどで発売されました。また、さほど知られてはいませんが、千昌夫ももち歌としています。

「与作」の歌詞をインターネットでも見ることができます。歌詞には、木こりの「与作」という男性と、その「女房」が登場します。

「与作」については、この歌詞をめぐって話題になることがあります。

よくある話題は、歌詞の一部の「ヘイヘイホー ヘイヘイホー」がどういう意味かについてです。

これについては、歌詞の初めに出てくるものは「与作は木をきる」につづいてのものなので、「与作」が木を伐るときの“かけ声”であり、そのつぎにでてくるものは、「こだまは かえるよ」につづいてのものなので、“山びこ”であると解釈できます。

また、この歌を発しているのはだれなのか、といった役割をめぐる問いもまれに見られます。もちろん、歌っているのは北島三郎や千昌夫ですが、では北島や千が「だれ」あるいは「なに」になったつもりで歌っているのかということです。

これについては、「与作は木をきる」や「女房ははたを織る」などの描写は「説明役」が発していることばであり、いっぽう「ヘイヘイホー ヘイヘイホー」は上記のとおり「与作」が発していると考えられます。つまり、「地の文」と「鍵括弧文」という関係です。また、「トントントン トントントン」については、「女房」がはた織りをしているときに道具から出る擬音語と理解できます。

最後の「ホーホー ホーホー」については、1番では「女房が呼んでいる」のあとに、また2番では「お山が呼んでいる」のあとにつづくことから、「与作」への“呼びかけ音”ととることができます。ただし、だれが発したのかまではわかりません。

さて、「与作」の歌詞をめぐってあまり議論されていないのは、「説明者がこの歌詞によって伝えたかったことはなんなのか」についてです。

歌詞の途中の「気だてのいい嫁だよ」までは、「与作」と「女房」のはたらきぶりをたんたんと描写しています。

しかし、その後は「与作 与作 もう日が暮れる 与作 与作 女房が呼んでいる ホーホー ホーホー」とつづきます。前半の描写とちがって、この後半では「与作」に対して、「もう日が暮れちゃうよー」「女房が(いつ帰宅するのかと)呼んでるよー」と、終業や帰宅を暗に促しているように捉えられます。

では「説明役」が、「与作」の働きすぎぶりを心配しているのでしょうか。そうすると、この歌での伝えたいことは、「『与作』の働きすぎぶりが心配だ」ということになります。

しかし、これが伝えたいことだとすると、「なぜ、そのことを北島三郎や千昌夫に歌わせる必要があるのか」といった疑問があらたに出てきます。わざわざ、歌として人びとに「『与作』の働きすぎぶりが心配だ」と伝える必然性は、そう高くはないでしょう。

そうなると、注目すべきは、歌詞の2番にある「働きものだよ」となりましょう。この歌詞での伝えたいことを「『与作』という木こり(やその女房)は働きものだ」と考えるのです。

このように解釈すれば、この歌を聴いている人びとは「木こりという仕事は働きものであればこそできるものかもしれない」とか、「やっぱり日本の古くからある仕事は、手間ひまのかかるものなのだな」とか、そこに意味を感じられそうです。さらに「与作」というひとりの木こりの事例として、「日本人は勤勉だ」といったことまで解釈を広げる人もいるかもしれません。

「『与作』という木こりは働きものだ」こそが伝えたいことであると捉えれば、北島三郎や千昌夫の歌手としての役割もより明確になるのではないでしょうか。つまり、歌う意味がより大きくなるといういことです。

ちなみに、作詞者の七澤公典は、ウェイターやサラリーマンなどの職をもつ、一般人に近い立場の人で、NHKの音楽番組『あなたのメロディー』に応募したことを端緒に「与作」の歌がつくられていったということです。七澤は『誰でもすばらしい運を持っている』という本も出しています。

参考資料
J-Lyric.net「与作」
http://j-lyric.net/artist/a000002/l00624d.html
YAHOO!知恵袋「『与作は木をきる、ヘイヘイホー、ヘイヘイホー』の『ヘイヘイホー』とは……」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11109435231
東京大学中原淳研究室 2006年3月7日付「与作」
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/355
ウィキペディア「与作」
https://ja.wikipedia.org/wiki/与作
たちばな出版 商品のご紹介「誰でもすばらしい運を持っている」
https://www.tachibana-inc.co.jp/detail.jsp?goods_id=1727
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