科学技術のアネクドート

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19世紀はじめ、ロンドンでインド人企業家がカレー店を開業――カレーまみれのアネクドート(86)
きのう(2016年)9月21日(水)付のこのブログの記事は「『ヘイスティングズが香辛料と米を持ちかえった』英国では言われず」というものでした。日本でいわれている、インドから英国へのカレー伝来の説には疑問点がいくつかあるといったものです。

S&Bのサイト「カレーの世界史」には、「このカレーと米を組み合わせたライスカレーはイギリス王室で大変な評判となり上流階級の人々へ広まり、次いで産業革命で頭角をあらわしてきた資本家階級など、生活に余裕のある人々へと広がっていきました」とあります。

これについても英国で発信されている情報をたどってみても、カレーと米の組みあわせの料理が王室で評判となったことや、その後、上流階級や資本階級に広がっていったことを示す記述にはなかなか出合えません。

その後、英国の企業クロス・アンド・ブラックウェルが世界で初めてカレー粉を商品化したというのが、日本でいわれている、英国でのカレー産業の歩みです。クロス・アンド・ブラックウェルは、1706年創業のウェスト・アンド・ワイアットを前身とする企業。1830年に従業員だったエドモンド・クロスとトーマス・ブラックウェルが経営権を買いとってクロス・アンド・ブラックウェルの社名にしました。

1950年から2002年まで、クロス・アンド・ブラックウェルを買収して、ブランド化していたネスレのサイトには、「かつて植民地であったインドからインド料理の秘密をカレー粉に凝縮して初めてヨーロッパに広げたのがクロス&ブラックウェル社でした」という記述が残っています。ちなみに、いまクロス・アンド・ブラックウェルは米国企業のJ・M・スマッカー傘下にあります。

しかし、きのうの記事で紹介した、ロンドンで出稿されたとする商用カレー粉の広告は1780年代のものとされています。ですので、「初めてヨーロッパに広げたのがクロス&ブラックウェル社」というのであれば、それはクロス・アンド・ブラックウェルの前身のウェスト・アンド・ワイアット時代でなければなりません。

いっぽう、英国放送協会のニュースサイトでは、ジャーナリストのローレン・ポッツさんが「18世紀後半に英国がベンガルを支配してから初めてインド料理が流行となり、1809年までにロンドン初のカレー屋も開店した」と述べています。

この「ロンドン初のカレー屋」とは、べつの英国放送協会ニュース記事によると、インドからの移民企業家ディーン・マホメッド(1759-1851)が開店したものとされます。英国では、すでにコーヒーハウスでもカレーが出されていました。しかし、マホメッドが出したカレーは、辛さが効いていたようで、1809年の新聞には「これまで英国でつくられてきたカレーとは一線を画す」と宣伝されたそうです。


ディーン・マホメッドの肖像

カレーという料理がどのように英国に入ってきたのかを追ってきました。日本と英国での情報内容のちがいがあり、一筋縄ではありません。

ちなみに、日本の「カレーライス」については、ウィキペディアには「インド料理を元にイギリスで生まれ、日本で発展した料理である」と説明されています。

英国カレー小史の記事は、これでいったん終了です。

参考資料
S&B「カレーの世界史」
http://www.sbcurry.com/dictionary/world/
ネスレプロフェッショナル「Crosse & Blackwell®」
https://www.nestleprofessional.com/japan/jp/BrandsAndProducts/Brands/Crosse_and_Blackwell/Pages/default.aspx
BBC NEWS 2015年1月17日付 “Dripping, apples and milk: Making curry the Victorian way”
http://www.bbc.com/news/uk-england-humber-30718727
BBC NEWS 2009年11月26日付 “How Britain got the hots for curry”
http://news.bbc.co.uk/2/hi/8370054.stm
ウィキペディア「カレーライス」
https://ja.wikipedia.org/wiki/カレーライス
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