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占領軍の職業訓練導入後、日本企業で社内研修制度が確立


社内研修のことが、世間で話題になることはあまりありません。企業は、経営状況が厳しくなると、交際費、交通費とともに、研修費を削減するといわれるそうです。企業にとって研修の優先順位はさほど高くなく、そのため社内研修も人びとの話題にならないのかもしれません。

「社内研修」のように「社内」ということばがつくのは、「社外研修」があるなかで、「社内」の研修であることを強調するためです。社外研修とは、おもに社員を社外で研修させることをいいます。これに対する「社内」ですので、社内研修には、社員を社内で研修させることとなります。

日本での近代的な職業訓練は、敗戦後の1948年ごろ占領軍の指導のもと、その方法などが導入されたといわれます。占領軍司令部の民間通信局(CCS:Civil Communication Section)が、米国式経営管理訓練を日本に導入すべく、経営幹部層に対して「CCS講座」を開きました。

占領軍はほかに、中間管理者層に対する「MTP」(Management Training Program)や、現場監督者層に対する「TWI」(Training Within Industry)などの職業訓練プログラムも導入しました。

1958年には、職業訓練法という法律が制定されました。のちに全面改正されたため「旧職業訓練法」とよばれています。この第3条は「事業内職業訓練」の項目となっていて、専門工の養成や訓練のほか、職長訓練も系統的に導入することが定められました。また、一定の基準に適合する事業内職業訓練を認定し、認定訓練には公共職業安定所から指導員を派遣するといった便宜もはかられることになりました。

戦後の、日本の大手企業の社内研修の歴史を調べた研究もあります。

日本大学経済学部教授の小暮雅夫さんは、キヤノンにおける社内研修制度を調べています。「キヤノンにおける社内研修制度の展開過程」という論文によると、キヤノンの人事課が主催となり計画的に新入社員教育が始まったのは1953(昭和28)年とのこと。背景には、カメラの大衆化が始まり、男性の熟練者のみが手づくりでカメラを作る時代の終焉があったようです。

旧職業訓練法制定の翌年にあたる1959(昭和34)年には、キヤノンは基幹技能者の育成を目指して「技能研修所」を開設します。当初、研修生は中卒新入社員でしたが、生産技術の高度化がより求められるようになった1963年には、工業高校新卒社員10人が選抜して、研修所に入所させたといいます。

また、おなじ1959年の2月には、部課長を対象とする「仕事の教え方」(TWI-JI:Training Within Industry - Job Instruction)という研修がおこなわれ、また4月には現場監督者を対象とする「人の扱い方」(TWI-JR:Training Within Industry - Relations)という研修がおこなわれたそうです。

いっぽう、三菱電機の亀山正俊さんは、自社の社内研修の歴史などを「三菱電機の人材育成」という記事にまとめています。

これによると、三菱電機本社が主催する「電子技術講座」が1978年に開講しました。それまでも、社内研修は同社の各拠点でおこなわれいましたが、本社が主催した研修はこれが初だったようです。背景には、急速な電子化の要請にこたえる必要性があったようです。

その後、キヤノンが技能研修所を開設したのとおなじように、三菱電機も1990年に「技術研修所」を設立。さらに2004年には経営やビジネスの分野の研修もとりこんで、「人材開発センター」を設立したといいます。

戦前の個人の技にものづくりを頼っていた時代が終わり、終戦後、占領軍の職業訓練導入を受け、高度経済成長期に自社での研修が本格的に制度化され、さらに研修センターなどの施設も社内にできた……。このような歩みは、日本の大手製造業にすくなからず当てはまりそうです。

参考資料
逆瀬川潔「職業訓練の変遷と課題」
https://appsv.main.teikyo-u.ac.jp/tosho/ksakasegawa52.pdf
木暮雅夫「キヤノンにおける社内研修制度の展開過程」
http://www.eco.nihon-u.ac.jp/assets/files/34kogure.pdf
亀山正俊「三菱電機の人材育成」
http://sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/201103kameyama.pdf
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