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燃え尽き症候群は“やり遂げたあと”のみならず


大相撲の横綱白鵬が、(2015年)3月の春場所できのう22日(日)34回目の優勝を決めました。

その後、白鵬がテレビ番組出演のなかで「じつは初日、2日目はなんか“燃えない”というか、そういう心境でありました」と発言したのを受けて、ごく一部の新聞報道は「白鵬“燃え尽き症候群”だった!?」といった記事の見出しをつけました。

燃え尽き症候群は、ドイツ出身で米国で活動したハーバート・フレウーデンバーガー(1926-1999)が1974年にはじめて学術論文で提唱した概念です。その後、米国の社会心理学者のクリスティーナ・マスラーク(1946-)が、「マスラーク・バーンアウト・インベントリー」という心理テスト法を開発するなどして、症候群として知られるようになりました。

マスラークによると、燃え尽き症候群では極度の身体疲労と感情の枯渇が示されます。そして、「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の減退」という三つの下位概念があるとされています。

情緒的消耗感とは、怒り、喜び、恐れ、悲しみなどの感情のはたらきが枯渇したように感じること。また、脱人格化とは、人を人だと感じなくなることを指します。三番目の個人的達成感の減退は、自分はものごとを成しとげたというやりがいが減ることをといえます。

このうち、情緒的消耗感はストレス反応と直接的にかかわっているものの、脱人格化や個人的達成感の減退は、ストレス反応とかならず一致するというわけではないと指摘されています。このちがいが、ストレスや抑うつという心の状態との診断のわかれめとされています。

また、日本では、ある大きな個人的目標を達成した人が、その後の虚無感にさいなまれて燃え尽き症候群になるとよく考えられています。たとえば、宇宙飛行士が宇宙から帰還したあと、職業へのモチベーションの低下が見られる場合があり、宇宙飛行士の精神心理的健康管理担当者が、「まだまだあなたにはこういう任務を期待している」と、新たな目標を意図的に課すことがあるようです。

しかし、大きな目標を達成しないと燃え尽き症候群がやってこないというわけではありません。仕事の激務などがつづいているにもかかわわらず、報われないといった心の状態もまた、燃え尽き症候群につながります。

白鵬の「初日、2日目はなんか“燃えない”」心もちだったようです。たしかに、先場所に前人未到の35回の優勝を果たしたことからすると、「大きな目標達成のあとに個人的達成感が減退する」という状況があってもおかしくはなさそうです。

しかし、そんな初日や2日目でも白鵬は相撲で勝ちつづけ、そのまま勝ち星を重ねて優勝しました。見出しの「白鵬“燃え尽き症候群”だった!?」という疑問の答は、「そうではないだろう」というものになります。見出しを付けるアイデアが尽きていたということもないでしょうけれど。

参考資料
デイリースポーツ 2015年3月22日付「白鵬“燃え尽き症候群”だった!?目標失い2日目までスイッチ入らず」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150322-00000108-dal-spo
土井裕貴「対人援助職におけるバーンアウト・感情労働の関係性 : 精神的な疲労に着目する意義について」
http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/bitstream/11094/26905/1/aes19-083.pdf
九州大学 2014年5月15日付「脳卒中専門医の4割が燃え尽き症候群 長時間労働や睡眠・休日の不足が原因、医療事故につながる恐れ」
http://www.med.kyushu-u.ac.jp/app/modules/information/detail.php?i=697&c=10
日経ビジネスオンライン 多角的にストレスを科学する「ビジネスにも通用! 宇宙滞在“8つの能力”」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20081105/176315/
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