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死者にノーベル賞が贈られることも


2011年のノーベル医学・生理学賞は、米国のブルース・ボイトラー氏、フランスのジュール・ホフマン氏、そしてカナダのラルフ・スタインマンさんの3人に贈られました。免疫学での業績によるものです。

しかし、スタインマン氏は、カロリンスカ研究所のノーベル賞委員会が授賞を発表した2011年10月3日の時点で、すでにこの世にはいませんでした。発表3日前の9月30日に、すい臓がんで死亡していたのです。

スタインマン氏の受賞理由は「樹状細胞と、獲得免疫におけるその役割の発見」というものでした。

樹状細胞とは、免疫にかかわる細胞のひとつ。ウニのように突起のついているような形をしています。この細胞は、自分自身で、生体にとって異物である抗原を取りこみます。そして、その取りこんだ抗原を、T細胞というべつの免疫細胞のところにもっていって、「こいつが抗原です。敵です」と提示します。

この樹状細胞からの刺激を受けたヘルパーT細胞とよばれるT細胞が、ほかの種類の免疫細胞に指令を出して、抗原をやっつけるような体制をとります。たとえば、ヘルパーT細胞はキラーT細胞という細胞に、抗原のウイルスに感染した細胞などを殺すように指令します。また、B細胞というべつの細胞には、その抗原を認識して結合する抗体をつくるように指令します。

ヘルパーT細胞がこのように指令を出せるのも、樹状細胞が「こいつが抗原です。敵です」と伝えるから。その伝える役割をもつ細胞を、抗原提示細胞といいます。かつて、抗原提示細胞は、おもにマクロファージという細胞だろうと考えられていましたが、スタインマン氏は、日本の女性研究者の稲葉カヨさんと協力して、樹状細胞こそが主たる抗原提示細胞であることをつきとめたのでした。

ノーベル賞には「死者には授与しない」という規定があります。これに従うと、スタインマン氏に賞はあたえられないことになります。しかし、授賞発表の時点でノーベル財団とカロリンスカ研究所は、スタインマン氏の死亡を把握できていなかったとして、スタインマン氏に賞を贈ることにしたのです。

スタインマン氏は、すい臓がんの治療として、樹状細胞を使った免疫療法を受けていました。みずからの研究した成果を、みずからの命を支えるために使っていたのです。

参考資料
ウィキペディア「ラルフ・スタインマン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ラルフ・スタインマン
ウィキペディア「樹状細胞」
http://ja.wikipedia.org/wiki/樹状細胞
ウィキペディア「T細胞」
http://ja.wikipedia.org/wiki/T細胞
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