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理系の女性があたりまえに活躍する社会で「リケジョ」は使われない


理化学研究所の細胞リプログラミング研究ユニットで長をつとめる小保方晴子さんたちの研究チームが、刺激惹起性多能性獲得(STAP:Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞を樹立したと2014年1月に雑誌『ネイチャー』で発表しました。

それ以来、「リケジョ」ということばが大手報道機関などでも使われています。

「リケジョ」は「理系女子」もしくは「理系の女性」を縮めたことば。2010年ごろから使われはじめました。講談社は2010年に「Rikejo」というサービスを立ちあげており、副題に「理系女子応援サービス」という、サービスの基本方針もうちだしています。

男性が多数を占めているように思われる分野で女性が活躍することに社会が反応し、その人たちへの呼称を生みだすという事象は、過去にもありました。

たとえば、歴史に精通している女性に対して社会の人びとは「歴女(れきじょ)」とよぶようになりました。人びとは「男性のほうが歴史を好きになる」という通念をもっていたのでしょう。また、鉄道を愛好する女性に対して「鉄子」とよぶ人びともいます。「鉄子」は、菊池直恵さんによる漫画『鉄子の旅』に端を発したものという話もあります。

女性が多数を占めているように思われる分野で男性が活動するということに対しても、社会は反応して、その人たちへの呼称を生んできました。子育てを楽しみながら勤しむ父親を、人びとは「イクメン」とよびます。また、夫婦のうち、家事などを男性が引き受けている場合、その人を「主夫」と表現することもあります。

このようなことばの対象になる人びとが、ことばが生まれる前にいなかったかといえばそうではありません。「リケジョ」ということばが世の中で使われるよりも前から、理系とよばれる分野で活躍をする女性はいました。

理系の女性についていえば、人数や活躍機会がすくないことが社会の課題と思われてきましたし、いまもそう思われています。

政府や一部の企業などは、いわゆる理系分野で活躍する女性の数を増やそうとする施策をとっています。こうした施策があるのは、政府や企業などが、理系分野で活躍する女性が男性よりもすくなかったり、理系分野で女性が活躍できる機会が男性にくらべてすくなかったりすると考えているからでしょう。

新しく人びとがつくったことばが、社会に影響をおよぼすことがあります。そのことばが生まれると、人びとがそのことばの指す対象に興味をもつようになるというのはそのひとつです。「リケジョ」ということばをマスメディアが使いだすと、大学や企業が理系学部に女性を入学させようと「リケジョ」を使いだしました。

では、理系で活躍している女性が自分のことを「あたしはリケジョ」と言っているかというと、それはそう多くはなさそうです。ただし、これは自分のことを「俺ってイクメンなんだけど」とか「あたしってノマドなんです」とよばないのとおなじ状況と考えられます。

理系の女性が自分のことを「リケジョ」とよばないとしても、「リケジョ」ということばが生まれて、女性が理系に進学することを意識する機会は増えたということは、すくなくともいえるのではないでしょうか。

では、これからもずっと「リケジョ」ということばが流行語のように使われて、やがて「リケジョ」ということばが定着することが、理系女子を増やそうと純粋に考えている人たちにとっての理想かといえば、そうであってはならないでしょう。なぜなら、「女性が理系分野で活躍するのがあたりまえ」になれば、わざわざ女性を「リケジョ」とよぶ必要もなくなるからです。

理系であることが特別視されず、かつ女性であることが特別視されないような理想的な社会があるとすれば、その社会では「リケジョ」といういことばは廃れているというのが、当然の帰結になります。
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