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手で触れて物質のつくりを実感する
人が目にしているものを細かくしていくと、分子が組みあわさった化合物がすがたを表わします。しかし、人はその化合物を眼で見られるわけではありません。ひとつひとつの化合物があまりにも小さすぎるからです。

目に見えない化合物のつくりがどうなっているかを実感するには、どうしたらよいでしょう。

電子顕微鏡などの顕微鏡で見るといった方法があります。しかし、顕微鏡は必需品ではありません。顕微鏡で物質を見るには、持ち主に使うことをお願いしたり、物質をセッティングしたりといった準備が要ります。

「カメノコ」とよばれる六角形の環などの化学構造を、えんぴつで紙に描くという方法もあります。しかし、化学構造を見て物質のかたちを実感できる人は多くはありません。

球や棒などの材料を組みあわせて、分子模型を組みたてることもできます。米国の化学者ジェームズ・ワトソンと英国の化学者フランシス・クリックは、二重らせん状になっているデオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)のつくりを、球と棒の材料を組みあわせてつくりました。しかし、物質の構造が複雑あるいは大がかりになるほど、球や棒でつくることもむずかしくなっていきます。

コンピュータのシミュレーション技術を使えば、物質の構造を全方向から観察したり、ある分子を結合させたりすることはできます。とはいえ、それもあくまで画面のなかでの話。この方法では、構造を手で触るようなことはできません。目で見ての実感にかぎられます。

より身近に、いろいろな物質のかたちを、肌で感じるとることはできないか。そのような望みをかなえるものとして、3次元印刷を利用した分子模型の作製技術が開発されています。

(2012年)11月11日と12日に東京・青海の日本科学未来館などで行われた「サイエンスアゴラ」では、日本コンピュータ化学会が、物質の立体模型を展示していました。



この立体模型は、北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科教授の川上勝さんが3次元印刷技術を応用して開発した骨格構造作製技術によりつくられたもの。模型はシリコーン樹脂でできていて、物質を構成する分子のパーツが磁石や凹凸で結合します。

いっぽう、形の合わない分子のパーツどうしは凹凸が合いません。きちんと分子どうしが合致して化合物ができていることを、手にとって理解することができます。

立体模型をつくる技術は、これまでもなかったわけではありません。しかし、材料に石膏を使うなどしていたため、硬くて脆く、気軽に物質の構造に親しめるものとはいえませんでした。

いっぽう、3次元印刷を応用した立体構造作製技術では、3次元印刷で分子表面のかたちを“殻”としてつくってから、その内部にシリコーン樹脂を流し込み、樹脂が固まったら殻を壊してシリコーンのみにします。必要により色もつけます。

手にとって物質の構造がわかる物体。目に見えないさまざまな物質に対して「こんな形をしているのか」「こんな分子で組み合わさっているのか」といったことを、手にとって理解することができます。これから理科教育の現場などで使われる場面がより出てくるかもしれません。

参考記事
北陸先端科学技術大学院大学「3D印刷技術を応用した新たな分子模型の作製方法を開発 複雑なタンパク質の構造、機能の直観的な理解が可能な教材、研究用ツールに応用」
参考文献
本間善夫「カガク×アートで見る生体分子、そして 3.11」『サイエンスネット』第45号
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