科学技術のアネクドート

<< 薬事法で薬としての安全を高める――遺伝子組みかえをめぐる法(4) | main | エネルギー漫画『H・E』コミック第1巻が発売 >>
条例で地域の安全・安心を確保する――遺伝子組みかえをめぐる法(5)
これまで見てきた、カタルヘナ法、食品安全基本法、食品衛生法、飼料安全法、薬事法はどれも国の法律です。いっぽう、遺伝子組みかえをめぐる“法”として、県などの地方自治体が「条例」を設ける例も出てきています。

条例とは、県や市などの地方自治体が、管理する事務について議会の議決によって制定する法のこと。条例は、国の法律と違反しないかぎりにおいて定めることができます。国の法律よりも強い規制が行なわれることも実際はあります。

北海道は、ほかの地方自治体にさきがけて、2005年に「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」を制定しました。

北海道では2003年、農業・生物系特定産業技術研究機構の北海道農業研究センターが遺伝子組みかえイネを栽培したところ、市民が「説明不足だ」などと反発しました。こうした経緯があり、道は2005年に条例を制定しました。

道は、この条例の趣旨を、「遺伝子組換え作物の開放系での栽培によって、一般作物との交雑や混入が起これば、 周辺の生産者をはじめ、地域農業全体の大きな経済的損失や生産・流通上の混乱、さらには消費者の健康への影響が懸念されることなどから、交雑や混入が生じないよう厳重な管理体制の下で行うためのルールを定めた」と説明しています。

遺伝子組みかえ作物を管理なしに栽培していると、非遺伝子組みかえ作物に遺伝子組みかえ作物の遺伝子が入ってしまうことによる風評被害や、住民の健康被害への懸念が高まることなどから、対策を立てたといえそうです。

条例では、農家が畑などで遺伝子組みかえ植物を育てる「開放系一般栽培」について、栽培者が地域説明会を開いたあと知事に許可を申請すること、知事は食の安全・安心委員会の意見を聴取して許可・不許可を決定すること、また、知事は栽培許可者に対して必要に応じて勧告、栽培中止命令、必要な措置命令、許可の取消しを行うことを定めています。

開放系一般栽培とはべつに、研究機関が研究ほ場で試験目的のために遺伝子組みかえ植物を育てる「開放系試験栽培」についても手つづきを定めています。試験研究機関は遺伝子組みかえ植物の栽培について地域説明会を開いたあと知事に届け出ること、知事は食の安全・安心委員会の意見を聴取すること、知事は研究機関に対して必要に応じて勧告、栽培中止命令、必要な措置を命令することを定めています。

「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」で定められた制度のしくみ(北海道農政部「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例の概要」より)

神奈川県も、2010年に「神奈川県遺伝子組換え作物交雑等防止条例」を制定しました。開放系栽培を行なう者は、遺伝子組みかえ作物と一般作物が交雑することや、遺伝子組みかえ作物が一般作物に混入することを防ぐための措置をとらなければならないこと、また知事への届け出をすることや説明会を開くことなども定めています。

農林水産省は、2002年11月、遺伝子組みかえ作物について「生産・流通上の混乱を招かないための交雑・混入防止措置の徹底」を指導することを地方自治体に通達しています。自治体での条例制定は、この通達を受けてのものと考えられます。

遺伝子組みかえに対して、各地域の住民が、食品として食べることは安全か、環境を荒らしてしまうおそれはないか、倫理的に許されることなのか、といった懸念を根強くもっているということも、条例の制定には関係していそうです。了。

参考文献
北海道「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」
北海道農政部「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例の概要」
神奈川県「神奈川県遺伝子組換え作物交雑等防止条例」
松井博和「北海道『遺伝子組換え作物に関する条例』の背景と経緯」
| - | 09:03 | comments(0) | trackbacks(0)
スポンサーサイト
| - | 09:03 | - | -
コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://sci-tech.jugem.jp/trackback/2416
トラックバック
CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< October 2014 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE