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「脂」も「肝」も増えるまえにふくらむ

「大きくなっていくもの」には、およそふたつの大きくなる方法があります。「増える」という方法と「ふくらむ」という方法です。

「お釜のなかで、お米をいっぱいにするにはどうしたらよいか」という問いが出されたとします。ある人は「お釜に米つぶを溢れるくらいまで満たす」と答えました。これは「増える」ほう。べつの人は「お釜のお米を炊く」と答えました。これは「ふくらむ」ほう。

では、動物のからだが大きくなるとき、その方法はどうでしょうか。

お腹まわりが大きくなるといった肥満では、「ふくらむ」ことから始まります。肥満化を担う主役は脂肪を貯える脂肪細胞。この細胞ひとつの大きさは、直径70マイクロメートルから90マイクロメートルほど。この細胞が脂肪をとり込みつづけると、ひとつひとつがふくらんでいき、それぞれ直径1.3倍ほどになります。

しかし、脂肪細胞といっても、いくらでも脂肪を貯めこめるわけではありません。1.3倍までふくらむと、それ以上はふくらまなくなります。それでも脂肪を摂りつづけていると、こんどは脂肪細胞が「しかたないなぁ」と、分裂しだします。ここから「増える」ことがはじまるわけです。

もうひとつ、動物のからだの内側には、大きくなる部分があります。肝臓です。エネルギー貯蔵物質のグリコーゲンを貯めたり、血糖を出したり、アルコールを解毒したり、もくもくと大車輪のはたらきをします。

肝臓は「再生する臓器」として知られています。かなりの部分を切りとってしまっても、また肝臓は大きくなっていくのです。たとえば、手術で7割の部分を切り除いたとしても、2、3か月すればほぼ元の大きさに戻ります。

肝臓のおよそ8割は、肝細胞という細胞でできています。つまり、肝臓が切ってもまた大きくなるのには、この肝細胞が鍵をにぎることになります。大きさは20マイクロメートルほど。脂肪細胞ほど大きくありません。

これまで、肝臓が切られたあと、肝細胞が分裂して増えていくことで肝臓が大きくなる、つまりは再生すると、なんとなく考えられてきました。

しかし、東京大学分子細胞生物学研究所のチームが、肝臓が大きくなる方法を「ちゃんと確かめてみよう」と考えました。

研究チームは実験で、マウスの肝臓を7割ほど切り除いたあと、肝細胞に目印となるタンパク質を入れて、細胞分裂の回数を見てみました。

すると、1個の肝細胞につき、平均0.7回、分裂したといいます。

しかし、この計算は割に合いません。3割しかなくなった肝臓の肝細胞がすべて0.7回分裂しても、元の大きさにならないからです。元の大きさになるには、肝細胞が平均1.6回、分裂しなければなりません。

分裂で増えているのでなければ、肝臓はどのように大きくなっているのでしょうか。

研究でわかったのが、肝細胞は「増える」よりも「ふくらむ」ということでした。じつは、7割を切り除いた肝臓では、残された肝細胞が1.5倍の大きさにふくらんでいたのです。

しかも、3割だけを切り除いたマウスの肝臓では、肝細胞がふくらむだけで、元の大きさに戻ってしまったといいます。

ここからいえることは、肝細胞もまずはふくらんで肝臓を大きくさせ、それだけでは元の大きさにならない場合は、肝細胞が分裂して増えるということ。つまり、肥満のなりかたと、順番としてはおなじだったわけです。

脂肪細胞も肝細胞も、とりあえず自分だけでどうにかしようとして、どうにもならないときには人の手を借りる、のではなく、自分を分身させていくということになります。

参考文献
杉原甫「脂肪細胞の増殖」
参考記事
東京大学分子細胞生物学研究所「肝臓の再生を担う肝細胞の驚くべき性質を解明」
肝臓の再生を担う肝細胞の驚くべき性質を解明
| - | 23:58 | comments(0) | trackbacks(1)
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