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牛糞にまみれ死んだギリシャ哲学者


おもに人が死を迎えるとき、その人のありさまは「死に様」とよばれます。古い時代の人物であっても、歴史に名を刻むような人であれば、死に様についても克明に描かれます。しかし、いまの時代から遠ざかるほど、どのような死に様をしていたのか、その描写はさまざまとなります。

ギリシャ時代の哲学者だったヘラクレイトス(紀元前535ごろ-紀元前475ごろ)も、死に様の説が複数あるひとり。

ヘラクレイトスが生きていた時代、哲学者はすべてのものがなにでできているかについて思想をめぐらせていました。ヘラクレイトスは「火が万物の構成要素であり、万物は、火の稀化と濃化によって生じたところの、火の交換物である」と考えたのです。火は濃くなると湿り、さらに凝縮すると水になり、さらに凝縮すると土になると、ヘラクレイトスは考えました。

ギリシャの哲学者というと、弟子とともに思索に耽るアリストテレスや、市民の前で説きふせるソクラテスのような、人と話し合う印象が強いかもしれません。

いっぽう、ヘラクレイトスは、友人が国外追放を受けるなどした経験から、人間不信に陥ったようで、人生の途中から人と接するのをやめ、山のなかで“引きこもり”生活を営んでいたといいます。

ヘラクレイトスは晩年、水腫を患っていたといいます。水腫は、からだの組織の間などにリンパ液などの水がたまる病気で、むくみなども起きます。

水腫に苦しんだヘラクレイトスは、したかなく街に戻り医者にかかることにしました。ヘラクレイトスは医者に「洪水を旱魃に変えることができるか」と、喩え話を使って病気の治療の可能性をたずねたといいます。しかし、そう言われた医者は、ヘラクレイトスがなにを言いたいのか意味がわからなかったようです。

そこで、ヘラクレイトスは医師による治療をあきらめたのでしょう、牛の糞のなかに体を埋めることにしました。糞の温もりで体内の水分が蒸発するとヘラクレイトスは考えていたのだといいます。

しかし、効き目なく、60歳で死んでしまったといいます。

べつの、ヘラクレイトスの死に様の説では、医者から「病を治せない」と言われた後、太陽の下に身を置いて、召使いたちにやはり牛糞を体に塗らせたといいます。

しかし、そのようにして寝そべりはじめた翌日、彼は死んでしまったといいます。

ほかにも、牛の糞を被っていたヘラクレイトスは、人間のかたちであるとは気づかれずに、犬に食べられて死んでしまったという説もあります。

ヘラクレイトスの死に様の描写はさまざまですが、共通点は牛の糞にまみれていたということです。

火を万物の上位概念に考えていたヘラクレイトス。死に際、彼の体にたまった下位概念の水は、蒸発することはなかったようです。

参考文献
ディオゲネス・ラエルティオス著 加水彰俊訳『ギリシア哲学者列伝』(下)
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