科学技術のアネクドート

<< 「白石」が綴った「白い灰」 | main | 松山町171番地は別荘だった――長崎とアトム(2) >>
書評『ツボに訊け!』
街なかを改めて見ると、鍼灸治療院の多さに改めて驚く方もいるでしょう。それほど、鍼灸は日本の社会に根づいたもの。しかし、治療を受けたことのない人にとっては、なかなか掴みどころがない未知の世界でもあります。そんな鍼灸の世界をわかりやすく読み解く一冊。



著者は1987年に鍼灸師・按摩マッサージ指圧師の資格を取得している。その後、ジャーナリストとして鍼灸などの分野を扱う出版企画会社を主宰し、さまざまな鍼灸雑誌や鍼灸・漢方本を手掛けてきた。

いまは、鍼灸専門学校での非常勤講師や、勉強会をプロデュースするなどしている。鍼灸の世界を熟知しながらも、その世界を外からの目線で眺めている。

鍼灸にも教科書や参考書があり、そこにはツボの位置などが書かれている。しかし、著者の話では、鍼灸師はそのような参考書は“参考”にする程度であり、「実際にツボを選ぶ時にいちばん頼りにするのは自分の指頭感覚」という。

そもそも、ツボの正体がいったい何者であるかもわかっていないというのだ。それぞれの鍼灸師が、自分にしっくりとくるツボや方法を見出して、治療を行っているらしい。

こう説明すると、鍼灸やツボというものが、ますます得体の知れないものに思えてくるかもしれない。だが著者は、ジャーナリストとしての表現力をいかんなく発揮し、掴みどころのない世界を言葉にしようとしている。

たとえば、分かりやすい説明が、鍼灸治療院を寿司屋にたとえたもの。

―――
考えてみれば鍼灸治療院は、イメージ的にはお寿司屋さんと似ているかもしれません。
一見の鍼灸治療院(寿司屋)には入りづらい(ですので、最初は紹介で行ったり、誰かに連れられて行ったりします)。
治療家(板前さん)によって、得意な疾患(ネタ)や治療方法のスタイル(調理法)がそれぞれ異なる。
治療家(板前さん)の性格や、自分との相性次第で印象が変わる(静かに寿司を食べたい人も賑やかな雰囲気が好きな人も、場合によっては叱られながら寿司を食べることを楽しみにしている人もいます)。
―――

鍼灸界に伝えられている金言や格言なども紹介する。「名師必ずしも明師ならず」(有名だからといってその道に詳しいとは限らない)や、「ツボは効かせるものであって効くものではない」といったものだ。

客観的な立場で鍼灸の世界を見る著者ならではの言葉もある。

―――
「感覚を共有する」という世界観が、今の日本では非常に希薄になってきています。今後、鍼灸界に限らず「名人」というものはいなくなるのではないかと筆者は危惧しています。
―――

現在の医療の主流的考え方は「科学的証拠はこうなっている」というエビデンス・ベースド・メディシン。これに対するアンチテーゼといえるだろう。東洋医学の分野も、最近はあえて東洋医学であることを隠す風潮が見られるという。そうした社会に対する批判的な視点も読者は感じることだろう。

『ツボに訊け!』はこちらで。
| - | 23:59 | comments(0) | -
コメント
コメントする









CALENDAR
S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2020 >>
SPONSORED LINKS
RECOMMEND
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで (JUGEMレビュー »)
サイモン シン, Simon Singh, 青木 薫
数学の大難問「フェルマーの最終定理」が世に出されてから解決にいたるまでの350年。数々の数学者の激闘を追ったノンフィクション。
SELECTED ENTRIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
amazon.co.jp
Billboard by Google
モバイル
qrcode
PROFILE