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「生産性の向上」がもたらすものは仕事


ここ何年か「仕事と生活の調和」をもっと考えましょうという提案が、政府や経済界などから起きています。「ライフワークバランス」ともいいます。

つまりは「仕事も充実感をもって行い、また、家庭や地域の生活でも多様な生活を選べるよう、両方のバランスをとりましょう」ということです。

このような提案がされるのは、多くの人にとって仕事と家庭生活のバランスがとれていないという現状があるからです。

内閣府は「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する意識調査」を今年(2008年)8月に、20歳から80歳までの2500人を対象に行いました。仕事と家庭生活のバランスがとれていないことを示す典型例がつぎの結果です。

「仕事」優先を理想とする人は、2.0%にすぎないが、現実には約半数が(「家庭」よりも)「仕事」優先となっている。

また、いろいろなことをするための「時間は十分とれているか」という質問もあります。「仕事のための時間」が「十分とれている」または「まあ取れている」と答えた人は計71.2%でした。いっぽう「家庭生活のための時間」は計64.1%、「休養のための時間」は49.6%と減っていき、「学習・趣味・スポーツなどのための時間」は36.5%、「地域活動に参加する時間」は19.5%となりました。

この結果からも、つい仕事を優先してしまう人々の考え方がわかります。

なぜ、仕事を優先してしまうかといえば、仕事には約束事が多いからではないでしょうか。いつまでに書類や原稿を提出しなければならないとか、売上をどのくらい伸ばさなければならないといった、契約事項が多くあります。しかも、給料や報酬といった生きていくためのおカネが掛かっています。これで仕事を優先しないという人は、よほど肝の座った人かもしれません。

約束事を守ることを優先するといった観点から、“仕事優先”は健全な社会の象徴であると考えるのもある意味、妥当なのかもしれません。

ともあれ、仕事と生活の調和が大事と考えたのでしょう。内閣府は「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定しています。

しかし、この憲章には議論の余地がある文言が盛り込まれています。それは、企業と働く者の役割が書かれた次の文言です。

「企業とそこで働く者は、協調して生産性の向上に努めつつ、職場の意識や職場風土の改革とあわせ働き方の改革に自主的に取り組む」

生産性の向上に努めることにより、少しでも無駄なく仕事をして、浮いた時間を家庭生活に当てようという意図があるように見受けられます。

では、生産性を向上した結果、増えるものといえばなんでしょうか。仕事ではないでしょうか。メールで情報伝達速度が上がったために起きたのはメールの洪水です。遠隔会議を行うために多くなったのは会議です。

1日の目標が未来永劫かわらないような職場で生産性が向上すれば、夜7時まで掛かっていた仕事が夕方5時までに終わるかもしれません。

しかし「生産性が上がったね。仕事の質が上がったね。早く帰れるようになったね」という職場はそう多くはありません。たいがいは「生産性が上がったね。仕事の質が上がったね。より多くの仕事ができるね」となることでしょう。

「生産性の向上」がもたらすものは産業社会における生産性の向上です。家庭生活の時間を増やすことにはなりません。

内閣府「『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する意識調査』について」はこちら。
http://www8.cao.go.jp/wlb/research/pdf/wlb-net-svy.pdf
内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」はこちら。
http://www8.cao.go.jp/wlb/government/pdf/charter.pdf
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