科学技術のアネクドート

3年使いつづけられるかを、3年かけずに確かめる
製品をつくって世に出す人たちは、その製品がかんたんには壊れないことを確かめたいことでしょう。すぐに壊れてしまっては、使っている人たちから苦情がくるだろうし、回収や修理をしなければならないからです。保証期間の定めようもありません。

つくった製品が長いこと壊れないということを確かめるには、その製品を長いこと使いつづけて壊れないのを確かめればよいということになります。たとえば、「3年は使いつづけても壊れない」ことをうたう製品をつくったとします。この製品を3年にわたり使いつづけて壊れなければ、「やっぱり3年使いつづけても大丈夫」となるわけです。

しかし、3年にわたり使いつづけても壊れないことを確かめるために、3年を費やすとなると、その製品を世に出すのも3年後となってしまいます。せっかくつくったのに、そこまで待っていられないでしょう。

そこで、製品をつくった人たちは、その製品を「加速劣化試験」とよばれる試験にかけます。

加速劣化試験とは、製品がふつうに使われる条件よりも、過酷な条件にさらし、劣化する速さを高めて、耐えうるかなどを確かめる試験のことをさします。

たとえば、宇宙へ飛んでいく宇宙機に対しては、「地球とは異なる宇宙のなかにずっといても機械や部品がはたらきつづけるか」を宇宙に飛ばすまえに確かめなければなりません。とくに、宇宙では地球よりも強い放射線が放たれています。放射線を機械や部品が受けつづけると、劣化するおそれがあります。

そこで、宇宙機によっては、地球の赤道上空のあたりで放射線が強くなっている「ヴァン・アレン帯」とよばれる空間をふくむ軌道に投入され、そこで加速劣化試験を受けることもあります。たとえば、2002年にH-IIAロケットで打ちあげられた人工衛星「つばさ」は、1年7か月にわたり運用されましたが、事前のヴァン・アレン帯を利用した劣化加速試験では、1年間で10年分にあたる量の放射線を浴びることができたといいます。


黄色いところがヴァン・アレン帯
図版作者:NASA/Van Allen Probes/Goddard Space Flight Center

ただし、加速劣化試験では、その製品がほんとうに使われるときの状況をとりいれることはむずかしいとされます。たとえば、湿度が高くて、汚れやすく、紫外線もあたるうえに振動も加わるといった状況を、試験では用意しづらいわけです。そのため、加速劣化試験は、製品が壊れないことを確かめる、万能ではないが最善の方法のひとつと考えられています。

参考資料
CKS 2015年3月27日改定「品質保証と品質管理 Ver.2.0」
http://wk.ixueshu.com/file/5dbc821f4b8e0cb9.html
ウィキペディア「加速劣化試験」
https://ja.wikipedia.org/wiki/加速劣化試験
宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター「つばさ」
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/mds.html
ブリタニカ国際大百科事典「バンアレン帯」
https://kotobank.jp/word/バンアレン帯-117825
はてなブログタグ「静止トランスファ軌道」
https://d.hatena.ne.jp/keyword/静止トランスファ軌道
ウィキペディア「つばさ(人工衛星)」
https://ja.wikipedia.org/wiki/つばさ_(人工衛星)
試験・分析.com「高加速劣化試験とは」
https://lab.atengineer.com/shiken/cls08048.html
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