2019.07.14 Sunday
赤ちゃんは、目にうつっている人のために「貢献」をする
写真作者:Mark Doliner
きのう(2019年)7月13日付のこのブログの記事「赤ちゃんは、生まれる前から母語の特徴を学んでいる」は、赤ちゃんのもつ能力のひとつについてのものでした。
赤ちゃんのもつ能力についての話をもうひとつ。
立ったり歩いたりすることができるぐらいまで成長した赤ちゃんは「貢献する」ことができるようになります。
たとえば、部屋のなかで親が両手にものを持っているため、部屋の扉を開けられないでいるとします。すると、その部屋にいる赤ちゃんは、親のその姿を見て、扉のところまで歩いていき、そして扉を開けます。
また、親が洗濯ばさみを床に落としたとします。すると赤ちゃんは、洗濯ばさみのところまで行って手にとり、それを親にあげます。
赤ちゃんのすばらしい貢献ぶりです。そもそも、どうして赤ちゃんは、こうした貢献をするのでしょうか。親から「人の役に立つことをしなさい」とことばで言われても、まだ理解はできないはずなのに。
この疑問をめぐっては、赤ちゃんのとるこうした貢献的な行動を、「人を援助をするため」でなく「みずからの心に決着をつけるため」と捉えてみたらどうか、という考えかたが脳研究の分野にはあります。
赤ちゃんは、親の行動を見ています。このとき赤ちゃんには「扉が開いて部屋から出ていくはずなのに、それができないでいる」とか「洗濯ばさみを持っているはずなのに、それができないでいる」といった、予測との実際の差が生じていることになります。
では、予測どおりの状況になるにはどうすればよいか。部屋の扉が開いていれば予測どおりになるわけです。洗濯ばさみが(親の)手中にあれば予測どおりになるわけです。こうした「予測どおり」を実現させるために、赤ちゃんはみずからで行動をとるのだというわけです。
こうした考えかたは、ほかの人の行動を見ているとき、みずからの脳でもその行動にかかわる部位が活性化する「ミラー神経細胞」の考えかたにもとづいているのは明らかです。
おとなでも、自分の利害とはべつに自然と人助けをしてしまうという経験をすることがあるもの。そうした社会的行動として捉えられる心の動機は、すでに赤ちゃんの脳のなかで生じているのかもしれません。
この記事は2019年7月13日(土)に東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構が主催した「予測する脳・発達する脳」の講演内容を参考にしています。
参考資料
脳科学辞典「ミラー・ニューロン」
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ミラー・ニューロン