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書評『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』
本書は新書と電子書籍で売られています。大きな画面で電子書籍を見ることで、臨場感が増すことでしょう。

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』J・ウォーリー・ヒギンズ、光文社新書、2019年、455ページ


昭和30年代は、日本がもはや戦後ではなくなり、経済の高度成長を遂げた時代。東京では1964(昭和39)年の東京五輪に向け、高速道路や地下鉄がつくられ、より高い建てものが建てられるようになった。街の雰囲気を表すのに「ギラギラ」あるいは「ガッタガタ」という表現が合っている。

東京にもほかの都市にも60年前の街の姿はもはやない。写真などの媒体に記録されている街のようすは貴重だ。ましてモノクロームの写真や映像が主流だったなか、カラーで風景や人物を見られる機会はいまのところあまりない。

本書は、東京や日本各地の街の姿を382枚のカラー写真で示し、撮影したときの状況などを文章で綴ったもの。とくに電車などの乗りものが対象となった写真が多い。

著者のJ・ウォーリー・ヒギンズは、1927年生まれの米国人。1956(昭和31)年、駐留米軍の軍属として来日した。かねてから路面電車などに興味があり、日本でもさっそく旅をし、「日本の電車に魅せられた」。貴重なカラーフィルムで撮影できたのは、従軍をしていたことで安価に手に入れられたからという。

はじめの3割ほどのページが「東京編」だ。

都電の活躍ぶり、自転車をこぐ人の多さ、建設工事の慌しさなど、当時の街の息づかいが感じられる。看板の書体も時代を感じさせる。駅の「1番線ホーム」といった表示板も手書き。電光掲示板などあるはずない。アナログの概念さえないような世の中は、もう二度とこないだろう。

「地方編」では、むしろ当時のほうが街に活気があったこともうかがわせる。

高知県の室戸の街道を撮った1枚には、野菜の売り買い、馬の台車引き、オートバイの疾走などが写され、とても動的だ。ちなみに、この写真でいくつも看板が見られる「太田旅館」はいまも営業しており、これを足がかりにグーグルの「ストリートビュー」でおなじ場所からのいまの眺めを見ることができる。1962(昭和37)年のほうが圧倒的に人が多い。

街は発展していくというけれど、発展するなかで「失われたもの」があるのもたしかなこと。舗装されていない道路、アドバルーン、半ズボン男子……たくさんの「失われたもの」が写真には詰まっている。

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』はこちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07JJ4FH3M/
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