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「寄付行為」すなわち「根本原則」



国語辞典は、わからないことばの意味を調べたり、ほかに言いかえられることばを見つけたりするのに便利なのもの。たいてい、国語辞典を引くことにより、人のわかる度は高まることになります。

ところが、国語辞典を引くことにより、わかる度が低くなることも、調べたことばによってはあります。

「寄付行為」の項目を引くとどうでしょう。たとえば、小学館の「デジタル大辞泉」には、つぎのようなことばの意味が載っています。

1 寄付をすること。
2 (寄附行為)学校法人や、財団法人の認可を受けた医療法人の定款をいう。

ひとつめの「寄付をすること」は、わかります。寄付行為は「寄付」の「行為」ですから。

しかし、ふたつめについては、はじめて知る人にとっては、まるでわけがわかりません。意味に出ている「定款」とは、会社をふくむ社団法人の目的、組織、活動などについての根本規則のこと。その学校版などが「寄付行為」だというのです。つまるところ、「寄付行為」は「根本原則」である、ということになります。

実際、大学などはホームページに「寄付行為」あるいは「寄附行為」を掲げ、そこに条文を掲げています。「学校法人拓殖大学寄付行為」「学校法人上智学院寄附行為」といったように。また、財団法人の根本原則にも「寄付行為」「寄附行為」が使われることがあります。

どうして、基本原則のことを「寄付行為」または「寄附行為」とよぶのか。別府市綜合振興センターという財団法人は、つぎのように説明しています。

「明治維新の時代に外国語の法律を翻訳する際の直訳や誤訳、または速訳で作られた造語であるとされる説があります。いずれにしても、『寄付行為』の字面から『定款』に相当する団体の基本規則であることを読み取るのはむずかしいと思われます」

財団法人についての「寄附行為」ということばは、旧民法の第43条で2008年まで使われてきました。つぎのように。

「法人ハ法令ノ規定ニ従ヒ定款又ハ寄附行為ニ因リテ定マリタル目的ノ範囲内ニ於イテ権利ヲ有シ義務ヲ負フ」

この民放は2006年に改正され、改正された民法が2008年12月に施行されました。これにより一般法人については、根本原則を意味する「寄附行為」は「定款」とよばれるようになりました。

しかし、日本大百科全書によると、「一般法人ではない法人については、医療法による医療法人のうちの財団型医療法人や私立学校法による学校法人に関して『寄附行為』が用いられるなど、従来どおりの概念が用いられている」とのこと。

学校法人の運営では、「寄付をする」といういみでの寄付行為が大切になるもの。まぎらわしさきわまりない「寄付行為」という法律上のことばが長年にわたり使われつづけ、多くの大学もこのことばづかいに従いつづけているわけです。

参考資料
デジタル大辞泉「寄付行為/寄附行為」
https://dictionary.goo.ne.jp/jn/53632/meaning/m0u/
別府市綜合振興センター
http://www.shinkoucenter.jp/soumu/gaiyo.html
日本大百科全書「寄付行為」
https://kotobank.jp/word/寄付行為-51462
RONの六法全書 on LINE「民法 第一編 総則」
https://www.ron.gr.jp/law/law/minpo_m1.htm

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