科学技術のアネクドート

ケモカインが白血球を現場に向かわせる

白血球(右)。左は赤血球、中はリンパ球。
写真作者:Andrew Robertson

ものごとの道理では、なにかの問題に対処するとき、対処する役割の者を現場に向かわせなければなりません。たとえば、火事が起きたとしたら、救急隊を火事場に急行させなければなりませんし、先発投手が打たれているとしたら、べつの投手を登板させなければなりません。

おなじようなことが、からだのなかの防御や免疫のしくみでもいえそうです。細菌や異物などがからだのなかにあるとき、それをやっつけるため、たくさんの白血球がそこに寄ってきます。そして、からだを防御する反応としての炎症を引きおこします。

このとき白血球たちを「現場」に向かわせるのが、「ケモカイン」というたんぱく質です。

ケモカインの英語のつづりは“Chemokine”。これは「走化性」を意味する“Chemotactic”と、「サイトカイン」を表す“Cytokine”からなっており、「走化性のサイトカイン」ということになります。

サイトカインとは、細胞は放たれて、免疫作用などに携わるたんぱく質のこと。そのサイトカインのなかでも「白血球を走らせる」、つまり「走化性のある」ものが「ケモカイン」です。

1987年に、米国の国立衛生研究所で研究していた松島綱治と吉村禎造が、白血球の一種である好中球を走らせる因子として、「インターロイキン8」というサイトカインを見つけました。これが、世界ではじめて報告されたケモカインとされます。

その後、多くのケモカインが研究者たちに発見されていき、つくりによって分類されていくことになります。「システイン残基」とよばれる部分の個数や、そのあいだにアミノ酸があるかどうかにより、「CCケモカイン」「CXCケモカイン」「Cケモカイン」「CX3Cケモカイン」に分類されます。

さらに、それぞれの種類は、さらに細かい種類に分かれており、全体ではおよそ50以上のケモカインが見つかっています。

いずれのケモカインも、「Gタンパク質共役型受容体」という受容体と結びつくことで、白血球を走らせる走化性を生じることになります。

炎症という現象は、からだに発熱や痛みを起こすだけでなく、神経系の病気やがんなどともかかわっていることがわかってきています。それらを司るケモカインに対しても、今後より研究者たちの関心が高まってくるかもしれません。

参考資料
日本薬学会 薬学用語解説「ケモカイン」
https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi/img/wiki.cgi?ケモカイン
日本血栓止血学会「ケモカイン」
http://www.jsth.org/glossary_detail/?id=16
ウィキペディア「ケモカイン」
https://ja.wikipedia.org/wiki/ケモカイン
「ケモカインレセプター」『アレルギー』64(8)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/64/8/64_1178/_pdf
東京理科大学研究推進機構 生命医科学研究所 炎症・免疫難病制御部門「松島綱治教授からのメッセージ」
https://k-matsushimalab.org/greeting/
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