種類が多ければはたらきも多く――血液多様性を見る(1)
赤血球のコンピュータ画像
画像作者:SciTechTrend
血液の成分のうち、赤血球や白血球のように「球」がつくものや、血小板のように「板」がつくものは細胞です。細胞であるということは、その細胞はもととなる細胞から複製されたことになります。その過程をさかのぼっていくと「血液のさまざまな細胞をつくるための細胞」にたどりつきます。
その源流となる細胞は「造血幹細胞」といいます。トーナメント表の頂点にあるような存在です。
造血幹細胞は、おもに骨髄、つまり骨の中心のところにあります。ただし、白血球を増やすための薬があたえられるなどすると、造血幹細胞が骨髄から血液へと出ていき、血液のなかで血液の成分になっていく細胞をつくることになります。こうした細胞は「末梢血管細胞」といいます。さらに、おなかの赤ちゃんとお母さんをつなぐ臍帯というひものなかにも造血幹細胞はあります。
造血幹細胞は、分裂するとともに「造血前駆細胞」という細胞になります。その後の分裂で、さらに「リンパ球性共通前駆細胞」という細胞と「骨髄球性共通前駆細胞」という細胞に分かれます。前者は、さらにT細胞やB細胞などのリンパ球になっていく前の段階の細胞。後者は、赤血球、好中球、マクロファージ、血小板などのさまざまな細胞になっていく前の段階の細胞です。
では、どのように造血幹細胞は、トーナメント表を逆に下っていくようにして、さまざまな血液の細胞へと分かれていくのか。これには造血幹細胞などの細胞のなかに組みこまれたしくみと、細胞の外にある環境のふたつがかかわってくるといわれています。
細胞のなかに組みこまれたしくみの代表例は、転写因子という遺伝子の群によるもの。血をつくることにかかわる転写因子たちが、血をつくるどんな細胞に分かれていくかを制御しているといいます。
転写因子とは、デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)の配列を、向かいの伝令リボ核酸(RNA:RiboNucleic Acid)に写しとるのを促したり抑えたりするたんぱく質のこと。さまざまな種類の細胞が生みだされるときは、さまざまな転写因子によって、どの遺伝情報を使うかが定まります。血液をつくる各細胞になっていく系統では、GATA-1、GATA-2、PU.1、C/EBPαといった転写因子が、どんな細胞に分化していくかの鍵を握っているとされます。
たとえば、赤血球や血小板などの細胞に分かれていく道筋と、白血球などの細胞に分かれていく道筋の分岐点では、GATA-1とPU.1のふたつの転写因子がかかわっているといいます。もし、GATA-1のほうがPU.1よりも強く現れるようであれば、赤血球や血小板への道筋がひらかれます。いっぽう、PU.1のほうがGATA-1よりも強く現れるようであれば、白血球への道筋がひらかれます。さらにそれぞれの先にも分岐点がいくつかあるわけですが。
細胞のなかに組みこまれたしくみとしては、転写因子による制御のほか、マイクロリボ核酸というリボ核酸や、エピジェネティクスとよばれる後天的な遺伝子制御の現象も携わっています。細胞のなかにある精緻なしくみが、血液の細胞の多様性を導いているわけです。つづく。
参考資料
Merck「造血幹細胞・免疫システム研究」
https://www.sigmaaldrich.com/japan/lifescience/bsmexplorer/discover-bioactive-small-molecules/hematopoietic.html
国立がん研究センター がん情報サービス「造血幹細胞移植とは」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/HSCT/hsct01.html
デジタル大辞泉「造血幹細胞」
https://kotobank.jp/word/造血幹細胞-552143
日本骨髄バンク「骨髄・末梢血幹細胞移植とは」
https://www.jmdp.or.jp/recipient/info/about.html
有信洋二郎・赤司浩一「造血幹細胞からの骨髄球系細胞の分化」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/60/7/60_KJ00007405478/_pdf
2019.03.06 Wednesday
もとをたどれば造血幹細胞――血液多様性を見る(2)
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