科学技術のアネクドート

“直前の直前”に“紙を置く”という準備

写真作者:Steven Brown

「備えあればうれいなし」とか「備えあればうれしいな」とか、よくいわれます。どんなものごとでも準備をきちんとすればこそ、“本番”がうまくいきやすくなるというものです。

記者にとっての「取材に向けての準備」も、おなじことがいえそうです。取材の対象者が書いた資料を読みこんで調べておいたり、聞くべきことをメモにしたためておいたりすればこそ、必要な“材料”をきちんと“取る”ことができる、つまり取材がうまくいくわけです。

実際、取材の場で、用意しておいた資料を取材対象者にも見てもらえば、そこから「このグラフのポイントはね」とか「この写真をどうやって撮ったかっていうとね」といったように話が盛りあがってくることもあるでしょう。また、聞くべきことをしたためたメモを懐にしのばせておけば、もれなく質問できるようになるでしょう。

ところが、いくら取材に向けて入念に準備できたとしても、取材の“直前の直前”で、その備えの甲斐をおおいに失してしまう“落とし穴”があるとかいいます。

“落とし穴”に落ちた経験のあるという記者は、つぎのように証言します。

「読みこんだ資料も、質問メモもかばんに入れて、『準備万端だ』と意気ごみながら、ようよう取材の場所に行きました」

「そして、取材対象者にお会いして名刺を交換し、『きょうはお時間ありがとうございます』『いえ、よう遠くまでおいでなさった』などと話をして、いよいよ取材に臨もうとしました」

「ところが、です。読みこんだ資料とか質問のメモをかばんのなかから取りださないまま、質問をはじめてしまったのです」

「相手とのやりとりには“流れ”みたいなものがあるでしょう。途中で流れをぶったぎって、かばんから資料やメモを取りだすというのはできないものでした」

「結局、その取材では、資料やメモをかばんから取りだして机に置くことなく、取材を進めることになりました。流れに流されてしまったわけです」

準備した資料やメモを机のうえに出しておかなければ、かなり備えの効果は減ってしまうわけです。備えの甲斐がまったくなくなってしまうとまではいかないまでも。

「それ以来、私は取材の部屋に入るとき、相手に見てもらいたい資料や、ちら見したいメモは、かばんのなかに入れず、手に持っておくようにしました。そして、かばんやコートを置くとき、手に持っておいた書類をそうそう机に置いてしまうのです」

人と会うときの人は、えてして緊張しているもの。相手に初めて会うような場合はなおさらのことです。取材対象者に会ってから質問を始めるまでという“本番の直前の直前”にどう行動をとるかでも、本番の成果は大きく変わってくるというわけです。
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