科学技術のアネクドート

コンピュータの「やっておきます」があまりきちんとやられていなかった

「やっておきますから」と言われて信じていたけれど、じつはやられていなかったということは、人と人とのやりとりではありうるものです。人間だもの。

コンピュータのしくみについても、人が手がけたものである以上「やっておきますから」の不実行はおきうると考えておいたほうがよいでしょう。

アップルのオペレーティングシステム「MacOS X」では、2015年9月から「El Capitan」というものが世に出ました。これは「Yosemite」というシステムの後継版に当たるものです。

YosemiteとEl Capitanのあいだで異なる点のひとつに、「確実にゴミ箱を空にする」という作業の選択肢がなくなったことがあります。


Yosemiteまであった「確実にゴミ箱を空にする」

「確実にゴミ箱を空にする」は、要らなくなったデータを復元されないように葬るためのもの。にた作業に「ゴミ箱を空にする」がありますが、これはいわば表面的なもので、コンピュータ内を探れば復元できるものとされます。

つまり、「ゴミ箱を空にする」は紙の書類をほかの場所に移しておくようなものであるのに対し、「確実にゴミを空にする」は紙の書類を裁断機にかけたり、燃やしたりして跡かたもなくするものであると考えられてきました。

ところが、「確実にゴミ箱を空にする」を選んで葬られたデータのうち、かなりの部分が復元できてしまうことが、かねてから指摘されていました。2011年に米国サンノゼで開かれた「FAST '11」という集いで、ミカエル・ウェイさんという学生が、ソリッド・ステート・ドライブという記憶装置が使われているアップル製コンピュータで「確実にゴミ箱を空にする」で葬ったファイルの復元を試みたところ、全体の67パーセントを復元できたという報告をしていました。

こうしたことから、アップルは「確実にゴミ箱を空にする」を選んでも、この作業の信頼性には疑義があると判断したのでしょう。オペレーションシステムの版をあらためるときに、この選択肢を外したというわけです。


El Capitanでなくなった「確実にゴミ箱を空にする」

この一連のできごとは、コンピュータが言ってくる「やっておきますから」が、じつはやられていなかったものと捉えることができます。ほんとうに「確実にゴミ箱を空にする」ような改善は、いまのところなされていません。

データを葬るときの選択肢は「ゴミ箱を空にする」だけになってしまいました。従来の作業に当たる「確実ではないが、かなりしっかりゴミ箱を空にする」といった選択肢はありえないものでしょうか。

参考資料
AAPL Ch. 2015年10月1日付「Apple、フラッシュストレージを搭載したMacでは「確実にゴミ箱を空にする」オプションが保証できないとして、OS X 10.11 El Capitanからこのオプションを削除。」
https://applech2.com/archives/46437181.html
ウィキペディア「OS X El Capitan」
https://ja.wikipedia.org/wiki/OS_X_El_Capitan

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