科学技術のアネクドート

「手書きの能力は退化する」にふたつぐらいの意味


写真作者:MIKI Yoshihito

コンピュータが使われてるなか、人は筆記用具を手にして「書く」という機会を減らしています。

「このままいくと、人の手書きの能力は退化してしまいそうだ」という人もいます。

このようにいうときの「退化」には、厳密にはふたつぐらいの意味があるのではないでしょうか。

ひとつは、生物学的な定義に寄った、器官や組織をさしての「退化」です。

ヒトをふくむ生きものには、器官や組織がありますが、それらが小さくなったり失われたりすることが、生物学における「退化」です。そしてこの「退化」は、生きものの個体にも、系統にもいえるものです。

たとえば、血管という器官がかたくなったり、心臓という臓器の筋肉が衰えたりといったものが個体における退化です。これらの結果、血圧が上がったり、心臓のポンプ機能が衰えたりします。

また、ヒゲからものを感じとる力が消えたり、ほかの霊長類にあるような尻尾がなくなったりしているのは、系統的な退化です。

これらの生物学的な「退化」はあくまで器官や組織のことを指すものですから、「手書きの能力の退化」を当てはめると、「手の、物体を持つときの握力が衰える」「指の、長い物体をつまむ能力が衰える」あるいは「脳の、筆記用具と紙の距離関係を認知する能力が衰える」といったことになりそうです。それが、個人のことを指す「退化」であっても、ヒトという種のことを指す「退化」であっても。

しかし、そこまで生物学的な定義に厳密に「退化」を口にする人はそう多くはないでしょう。

一般的に「退化」は「衰えること」をさします。

ですので、手や指や脳という器官・臓器を指すまでの意図はなく、「手書きをしなくなると、だんだん手書きに不慣れになって、そのうち手ではうまく書けなくなっていく。自分自身もそうだし、人類もそう」といったぐらいの意味で「退化」を口にしているわけです。この意味の「退化」であれば、ひんぱんに手書きで文字を書くことをしていれば「退化をなくす」こともできそうです。

参考資料
デジタル大辞泉「退化」
https://kotobank.jp/word/退化-90854
ブリタニカ国際大百科事典「退化」
https://kotobank.jp/word/退化-90854
ブリタニカ国際大百科事典「老化」
https://kotobank.jp/word/老化-152371
ウィキペディア「退化」
https://ja.wikipedia.org/wiki/退化
龍谷大学「人類学のすすめ 第14回 ヒトの身体特徴の進化1」
https://www.pri.kyoto-u.ac.jp/sections/ecolcons/hanya/ru/ru.html

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