科学技術のアネクドート

遠い者どうしほど「なにか」が起きる

画像作者:AndreaLaurel

米国の遺伝学者トーマス・ハント・モーガン(1866-1945)は、遺伝子の性質をめぐって、つぎのような考えを唱えていました。

「組換え価は、遺伝子の距離に比例する」

これは、いまも高校の生物の授業で出てくる考えです。

「組換え価」とは、ふたつの異なる遺伝子のあいだに「組換え」が生じる割合のことをいいます。遺伝子の組換えとは、それまでとは異なる遺伝子のくみあわせが生じること。

たとえば、卵と精子などの生殖細胞が減数分裂をするときには、相同染色体の一部が入れかわりますが、このとき精子の「遺伝子A」と精子の「遺伝子B」が組になっていたのが、精子の「遺伝子A」と卵の「遺伝子b」が組になることがあるわけです。

「遺伝子の距離」とは、おなじ細胞のおなじ染色体内にある、ふたつの遺伝子の物理的な距離のこと。ここでは精子の「遺伝子A」と「遺伝子B」の距離、あるいは卵の「遺伝子a」と卵の「遺伝子b」の距離をさします。

遠く離れた「遺伝子A」と「遺伝子B」では、そのあいだがどこでも染色体の入換えクロスポイントになるわけですから、遺伝子の組換えが起きやすい状態にあるといえます。

いっぽう、ごく近くの「遺伝子C」と「遺伝子D」では、あまりに距離が近いため、そのあいだが染色体の入換えクロスポイントになることは、あまりなささそう。つまり、遺伝子の組換えが起きにくい状態にあるといえます。

なので、「組換え価は、遺伝子の距離に比例する」。つまり、ふたつの遺伝子の距離が遠いほど、遺伝子の組換えは起きやすくなり、逆に、ふたつの遺伝子の距離が近いほど、遺伝子の組換えは起きにくくなるわけです。

感覚的には、ふたつのものの距離が近いほど、このふたつのあいだでは「なにか」が起きやすそうだと考えてしまいがち。けれども、ここでのその「なにか」とは「もとの遺伝子と遺伝子が離ればなれになってしまう」ことなので、感覚とは逆に、この「なにか」が起きやすくなるわけです。

これを「遠い駅から学校へ通う人のほうが鉄道事故で遅刻する可能性は高いでしょう」と喩える人もいます。

参考資料
遺伝の演習 Web版「くみかえ率と遺伝子間の距離」
http://www004.upp.so-net.ne.jp/saigot/iden/6-7.htm
Bio Huck「染色体地図」
http://manabu-biology.com/archives/42098597.html
Yahoo!知恵袋「なぜ、遺伝子間の距離と、組換え価の大きさは対応するんですか?」
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1188554051
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