科学技術のアネクドート

「自分の意見を言える人」は「自分の意見を言う人」ではない


多くの企業は人を雇います。それぞれの企業で、求める人の像はちがってくるものでしょうが、全体としてはどのような人を求めているのでしょうか。

「自分の意見をきちんと言える人」

こういうことを謳っている企業はあるものです。企業サイトの採用ページなどでは、つぎのような文言が見られることがあります。

「前向きで自分の意見をはっきり言える後輩と仕事をしたいですね」

「(人選のポイントは)受け答えがきちんとでき、自分の意見をきちんと言える人」

「(求める人物像)臆せず積極的に自分の意見を言える人」

一般的に「意見」とは、あるものごとについてもっている考えのことをいいます。つまり「意見の言える人」とは、「自分の考えを言える人」ということになります。

実際のところ、新たな人を迎えいれる側の社員たちは、どのような人とともに仕事をしたいものなのでしょうか。「意見を言える人」と意見が食いちがったときは、どうなるでしょうか。

上司「あのプロジェクトの案件、今週中に片づけちゃおうよ。ね」
社員「私としては、もっとじっくりプロジェクトにとりくむほうがよいと考えています。来週の前半まで日数をかけるとよいと考えています」
上司「……」

上司「モノクロコピーでいいからね」
社員「社長にプレゼンテーションをするうえでは、カラーの資料をお渡しするほうが、失礼ないし、より効果的だと考えています」
上司「……」

一般的に、人は、自分の思いどおりに進まないことがあると精神的ストレスを感じるものです。上司が「こうしたい」「こうするのが当然」と思っていることに対して、いちいち部下が「自分の意見」をほんとうに言ってきたら、たまったものではないのではないでしょうか。部下の意見を聞いたうえで、上司が意思決定するという決まりを、部下がよく受けとめているというのであればべつですが。

自分のやりたいことについて、自分とちがった意見を言わず、同調してくれる人。そうした人こそ、迎えいれる側が抱いている、理想の人物像ではないでしょうか。

「自分の意見を言える人」は、「自分の意見を言う人」や「自分の意見を言ってくる人」ではありません。このちがいが要点なのではないでしょうか。つまり、「自分の意見を言える人」とは「ものごとについての自分としての意見をもっていて、その意見を言おうとすれば言える(けれどあまり言わない)人」のことを指すわけです。
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