科学技術のアネクドート

「倍」になり進化が進む

元写真作者:Michael Coghlan

ある子どもが、前日、親に買ってもらったレゴブロックをいろいろ組みあわせて遊んでいます。さまざまなかたちのブロックを組みあわせてお家をつくったりしています。

しばらく経ったある日、親が「レゴブロック、さらに買ってきたよ」と言って、先日買ったのとおなじレゴブロックを子どもにあたえました。これで、レゴブロックは2倍の多さに。この子どもは大よろこびで、こんどはお城をつくりました。ブロックの数が2倍になって、かんたんな家のほかに、込みいったお城をつくることができました。

生きものの世界でも、生きもののかたちや特徴をつくるおおもとの材料が“倍”になるというできごとがあります。

生きものの歴史のなかでは、ごくまれに「ゲノム倍加」とよばれるできごとが起きます。ゲノム倍加とは、まさに字のごとく、その生きもののもっている「ゲノム」つまり遺伝子をふくむ染色体の全体が「倍」になること。ある生きもののゲノムひとつの総量が100だったとすると、ゲノム倍加によって200になるわけです。おなじゲノムがそっくりそのまま倍になるため「ゲノム重複」ともよばれます。

ゲノムが倍加すれば、遺伝子の数も2倍になります。たとえば、パン酵母という菌類では、過去にゲノム倍加を経験したことが知られていて、もともと5000個ほどだった遺伝子が1万個ほどに増えたといいます。

ただし、ゲノム倍加のあと、そのまま遺伝子の数がもとの倍のままがつづくというとそうともいえず、2倍の数から減っていくようです。その過程では、重複した遺伝子のいっぽうが失くなるなどして、ゲノムの再編成が起きるようです。パン酵母の遺伝子の数は、いまでは5600個ほどといいます。

植物ではさらに、ゲノムが2倍でなく、3倍になる「ゲノム三倍加」を経験している種もあるといいます。たとえば、アブラナ属のすべての種がゲノム三倍加をかつて経験したとされます。また、ナス属の系統にいたっては、ゲノム三倍加を2回つづけて経験したということがわかっています。

ゲノムが2倍や3倍になれば、遺伝子の数が増えたり、ゲノムの再編成が起きたりします。よって、その後の進化のしかたは倍加するまえより複雑になりえます。つまり倍化により、その種の分化や多様化がより進んでいくことになると考えられています。

参考資料
杉野隆一「遺伝子の並び順の進化と非コードDNA」
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc772/83j8385815B83X838C835E3C_ncDNA-48D860612.pdf
青木考「果菜のモデルとしてのトマト」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscrp/50/2/50_KJ00010115792/_pdf
nature 2012年5月31日付「遺伝:トマトのゲノム塩基配列から得られる多肉果の進化の手がかり」
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/485/7400/nature11119
nature genetics 2016年10月1日付「アブラナ属:Brassica rapaおよびBrassica oleraceaではサブゲノムの並列選択が形態型の多様化および収斂的な作物栽培化と関係する」
https://www.natureasia.com/ja-jp/ng/48/10/ng.3634/
大熊康仁の進化爆発「脊椎動物の全ゲノム倍加と遺伝子発現調節メカニズムの進化」
https://ameblo.jp/832d-d-s/entry-12240027911.html
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