科学技術のアネクドート

人間をはじめ動物には「重力」が大切そう


金井宣茂宇宙飛行士らを乗せた「ソユーズMS-07」の地球帰還
NASA/Bill Ingalls

日本人宇宙飛行士の金井宣茂さんが、(2018年)6月3日(日)、168日間の宇宙滞在を経て、「ソユーズMS-07」宇宙船に乗り地球に還ってきました。宇宙滞在中、国際宇宙ステーションで「健康長寿のヒントは宇宙にある。」という主題で使命を果たしたということです。

宇宙滞在中の金井さんについて、体調不良などは報じられず、順調に使命を果たしたことがうかがえます。

また、宇宙滞在中の1月9日には、「実は、宇宙に着いてからの身体計測があったのですが、な、な、なんと、身長が9センチも伸びていたんです! たった3週間でニョキニョキと。こんなの中高生のとき以来です」とツイッターで報告しています。

報道を見ると、地球帰還直後の金井さんは笑顔でしっかり右手を振っています。ただ、その元気そうな表情やしぐさとは裏腹に、地上の係員にしっかり体を支えられてもいます。

宇宙飛行士が地球帰還後、地上の係員に抱きかかえられて、当座の目的地に向かう姿は、なにも金井さんに限ったことではありません。こうなるのは、微小重力の環境で長らく暮らしていたため、重力のある地球でふたたび暮らしはじめるうえで、体がすぐに順応しないからと説明できそうです。

具体的なからだの状態としては、「体の重心がどこにあるかわからない」「気分が悪くなる」「太ももがあまり上がらずにつまずく」「ものの重さを感じる」といったことがあるようです。

微小重力に慣れきったからだの状態から、地球での暮らしにふさわしいからだの状態に戻るため、帰還後の宇宙飛行士は40日以上にわたるリハビリテーションにとりくむといいます。

こうしたことから、人間や動物は、いかに地球の重力の影響をあたりまえのこととして受けながら、長きにわたり生きてきたかがわかります。

地球環境の持続性が保たれ、科学・技術が進歩すれば、21世紀か遅くとも22世紀には、人類の一部が火星に到達し、そこで滞在生活を送ることでしょう。

火星の重力というと、地球のおよそ3分の1。国際宇宙ステーションの微小重力にくらべれば、重力はあります。しかし、重力が地球の3分の1しかない火星で、なにも“重力補充”のケアなく人類が暮せば、その人びとがなにかの理由で地球に戻ってきたとき、からだへの影響は甚大なものになってしまうかもしれません。

火星に移住した人類が、地球に帰還することなく、火星での滞在を半永久的にしつづけたとすれば、その人たちは火星の環境に順応していくのかもしれません。しかし、しばらく時間が経つと、“地球人”と“火星人”のからだの状態は、大きく離れていくのではないでしょうか。

もちろん宇宙開発の研究者たちには、宇宙や火星で重力が小さすぎることの人のからだへの影響は想定済み。国際宇宙ステーションにも、テーブルが回ることで重力を生みだす「人工重力発生装置」が備わっているといいます。ただし、滞在している宇宙飛行士たちを、地球とおなじ重力の状態で生活させるといった段階には至っていないようです。

火星への移住をめぐっては、輸送手段をどうするか、食糧をどうするかといった課題が見られます。おなじように、重力をどうするかも、課題のひとつといえましょう。

金井飛行士は、地球帰還後「これからだれもが宇宙に行く時代」というメッセージを発しています。

参考資料
金井宣茂ツイッター 2018年1月8日
https://twitter.com/Astro_Kanai/status/950479226330865670
マイナビニュース 2018年6月7日付「金井宇宙飛行士、宇宙から帰還 『これから誰もが宇宙に行く時代』」
https://news.mynavi.jp/article/20180607-642804/
からだと.「宇宙飛行士がすぐ立てない最大の理由は筋力低下じゃなかった話」
http://www.karadato.com/2016/10/31/3863/
漆原次郎『宇宙飛行士になるには』
https://www.amazon.co.jp/dp/4831513806
宇宙航空研究開発機構 コラム宇宙開発の現場から「無重力の宇宙で重力を発生させるとは?」
http://iss.jaxa.jp/column/sachiko/vol5.html
Forbes 2017年7月16日付「重力は地球の1/3、火星で長期間暮らすと何が起こる?」
https://forbesjapan.com/articles/detail/16950

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