2018.05.07 Monday
ミトコンドリアのDNAも調べて過去を探る
遺伝子の本体である物質を「デオキシリボ核酸」(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)といいます。DNAには遺伝子の情報が詰まっており、たとえ生きものが死んだとしてもDNAは保存されます。なので、その生きもののDNAを細胞から採って調べれば、生きものがどんな体の特徴をもっていたかがある程度わかるし、どんな暮らしをしていたかもある程度は推しはかれます。
DNAというと、細胞の核のなかにある染色体のものを多くの人は思い浮かべることでしょう。しかし、細胞のなかにあるDNAは核DNAだけではありません。「ミトコンドリアDNA」もあります。
ミトコンドリアは、細菌類や藻類を除く大多数の生物がもつ真核細胞のなかにあり、それ自体は呼吸にかかわるはたらきをしています。このミトコンドリアにもDNAがあるのです。しかも、核DNAとちがって、ひとつの細胞には数百から1千数百のミトコンドリアDNAがあるといいます。
人間のミトコンドリアDNAの塩基対の数は、1万6569。人間の核DNAの塩基対の数はおよそ30億とされるので規模は小さめ。いっぽうで、たくさんのDNAがあるため、多様化しやすいといった特徴があります。
また、核DNAの遺伝子は性別にかかわらず遺伝するのに対して、ミトコンドリアDNAの遺伝子は母から子にのみ遺伝します。そして、その子が女性であり母になれば、その母から子へ遺伝します。卵子よりも精子のミトコンドリアDNAはとてもすくないことや、受精のときに除かれやすいことなどが理由とされます。
つまり、ミトコンドリアDNAでは、父子鑑定をふくめ男系の祖先をたどっていくはできないものの、母子鑑定をふくめ女系の祖先を純粋にたどっていくことはできるわけです。すると、母の母の母の母の母……をたどっていけば、理屈では、人類共通のひとりの母にたどりつくことができます。この存在を「ミトコンドリア・イブ」といいます。学説では、約16万年前にアフリカにいた女性にたどりつくとも。
ただし、ミトコンドリア・イブ以外にも、かつての同時代の地球上には女性がいて、その女性の系列はいまでは途絶えてしまったかもしれません。そう考えると、そのミトコンドリア・イブが、人類で最初の女性であったとはかぎりません。
核DNAとともにミトコンドリアDNAの存在が、生きものの昔を探るために役立てられています。
参考資料
朝日新聞掲載「キーワード」「ミトコンドリアDNA」
https://kotobank.jp/word/ミトコンドリアDNA-881694
日本大百科全書「ミトコンドリアDNA」
https://kotobank.jp/word/ミトコンドリアDNA-881694
デジタル大辞泉「ミトコンドリア-イブ」
https://kotobank.jp/word/ミトコンドリアイブ-638909
デジタル大辞泉「イブの仮説」
https://kotobank.jp/word/イブの仮説-435654