写真作者:Changjin Lee
分子レベルで生命現象を解明しようとする分子生物学などの研究者にとっては、あたりまえのことかもしれませんが、この分野の研究内容で登場することの多い現象のひとつに「リン酸化」があります。たとえば、つぎのように「リン酸化」が出てきます。
「インスリン受容体ならびにその下流のリン酸化阻害によるインスリン/IGFシグナル経路の抑制が示された」
「大腸の酸素分圧は胃のそれに比べて5分の1程度と報告されており、大腸では正常組織もがん組織も酸素を必要とする酸化的リン酸化反応はほとんど行われていないのではないかと推測される」
「KaiAは、KaiCに作用してCaiCのリン酸化を促進します。このリン酸化がKaiCの寿命を調整している可能性があると見られています」
現象という点から見ると、「リン酸化」とは、タンパク質に「リン酸基」という物質の一部が加わる化学反応のことを指します。通常のリン酸の化学式は「H3PO4」ですが、たんぱく質に加わったリン酸基の部分は「PO3^2-」のように表されます。
リン酸化の代表的な化学変化として紹介される例のひとつは、セリンというアミノ酸の一種にリン酸基が加わるというもの。セリン(C3H7NO3)がもつヒドロキシ(-OH)の基から、プロトンともよばれる水素原子1個(H)が離れていくと、そこに、アデノシン三リン酸(ATP:Adenosine TriphosPhate)という物質のもつ「PO3^2-」の部分がくっつきます。
この結果、リン酸化を受けたセリンはホスホセリンという物質になります。ホスホセリンは「リン酸化セリン」ともよばれます。また、アデノシン三リン酸はリン酸基を渡して、アデノシン二リン酸(ADP:Adenosine DiphosPhate)となります。
リン酸化されるということは、タンパク質などの物質の構造が変わるということ。リン酸化によって構造が変わることによって、静かだったタンパク質が働きはじめます。これは「タンパク質の活性化」ともよばれる変化です。
リン酸化が起きたタンパク質は、さらに関わりのあるべつのタンパク質をリン酸化します。こうして、タンパク質の活性化が移っていくことに。リン酸基というバトンを受けわたして、つぎつぎとタンパク質が元気になっていくといった喩えもあるようです。
榛葉繁紀「メタボリックシンドロームとアンチエイジング」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/24/2/24_2_127/_article/-char/ja/
Hirayama, A など「CE-TOFMS による胃がんおよび大腸がん組織のメタボローム解析」
http://www.iab.keio.ac.jp/research/highlight/papers/200910141503.html
「生物時計のタンパク質を解明 立体構造と機能を原子レベルで」
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/annual_report/annual_report-2004_05-jp.pdf
夢ナビ「タンパク質のリン酸化で情報が伝わっている」
http://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g001989
Thermo Fisher「リン酸化」
https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/protein-biology/protein-biology-learning-center/protein-biology-resource-library/pierce-protein-methods/phosphorylation.html
ウィキペディア「リン酸化」
https://ja.wikipedia.org/wiki/リン酸化
2018.03.19 Monday
バトンを受けわたすようにリン酸化がつぎつぎ進む
(C) 2024 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.