2018.03.18 Sunday
信頼に足る社会が、健康や長寿をもたらしうる
写真作者:purplejavatroll
心の状態と体の状態にはつながりがあり、「病は気から」とか「心配は万病のもと」とかいったことわざもあります。逆に、心が健全だと体も健康になるとも考えられるでしょう。
こうした考えかたの発展型といえるのが、「社会的な関わりの状態と体の状態にはつながりがある」というものです。
「社会関係資本」という考えかたがあります。社会における人びとの結びつきや信頼関係を表すもの。ほかの人を信頼すること、つきあったり交流したりすること、社会活動に参加すること。こうしたものごとが充実していればいるほど、社会関係資本はよい状態にあるといえます。
「社会関係資本の状態がよいと健康や長寿になる」といった関係性を示す研究結果がいくつも報告されています。
「一般的に人は信頼できるものだと思うか」といった質問を人で「一般的信頼感」があるかどうかを知ることができます。一般的信頼感は、人一般を信じられる感覚といえばよいでしょう。
この一般的信頼感が高いほど、「健康感が高い」「死亡率が低い」といった関係が、異なる研究から見いだせています。
また、国の高齢者保障制度に対する信頼感についても、それを信頼している人にくらべて信頼していない人がもつ不安感は2.29倍、まったく信頼していない人がもつ不安感は3.5倍にもなるという研究結果もあります。
社会関係資本が豊かだと、どうして健康であったり、死亡率が低かったりするのか。大きなところでは、やはり日常的なストレスがすくないなかで生きられるようになり、それが、健康や長寿によくはたらく、といった説明がされるようです。
一般的に、昭和などのかつての社会のほうが、知らない人どうしの会話も多く生じたし、となりに住む人との関わりも強いものがあったのではないでしょうか。もし、社会関係資本が健康や長寿をもたらす大きな要因であるとすれば、昭和よりも平成のほうが、健康や長寿になりづらい時代になっているということになります。
社会関係資本と健康や長寿の関係性を研究してきたハーバード大学のイチロー・カワチさんは、取材記事で、日本で社会関係資本が減ってきていることを心配しています。
「日本では、伝統的に組織や地域の『ソーシャル・キャピタル』の力が強く、社会が抱える様々な問題を『助け合い』で解決してきました。私は、日本人が長寿であり続けた大きな理由に、この『ソーシャル・キャピタル』があると考えています」
「でも近年、日本ではこの力が急速に衰えています。その大きな理由が、やはり格差の拡大です。社会的な格差が広がると、社会との摩擦や、人と人との軋轢が生じて『ソーシャル・キャピタル』がすり減ります。その結果、地域や社会の『助け合い』の力が弱まり、その結果、持てるものと持たざるものとの間で『健康格差』が生まれ、その差はどんどん広がっていきます」
信頼できるかどうかは、自分の考えかたもさることながら、相手がどういう心のありかたをしているか、あるいは社会がどういう状態であるか、といったことでも変わってくるもの。健康や長寿でいられるかは、個人の課題でもあるし、社会の課題でもあるといったところでしょうか。
参考資料
デジタル大辞泉「ソーシャルキャピタル」
https://kotobank.jp/word/ソーシャルキャピタル-553520
朝日新聞掲載「キーワード」「ソーシャルキャピタル」
https://kotobank.jp/word/ソーシャルキャピタル-553520
村山洋史「ソーシャルキャピタル:人や社会とのつながりが健康に与えるインパクト」『老人研NEWS』2010年7月号
http://www.tmghig.jp/J_TMIG/books/rj_pdf/rj_no239.pdf
ハフィントンポスト日本版 2017年12月2日付「日本が「長寿大国」と言えなくなる日。ハーバード大教授に聞く、深刻すぎる理由」
https://www.huffingtonpost.jp/2017/12/01/health-disparities-in-japan_a_23292489/