科学技術のアネクドート

“頼む・請けおう”の関係で「締めきり」はねじれ気味

描画作者:Eric Geiger

世の請けおい仕事では、たいてい「締めきり」が決められています。

請けおった立場の人にとっての「締めきり」の意味は、「約束していた納品の日時」とか「過ぎるとまずい日時」とか「努力目標としての提出日時」とか、人によって異なるのかもしれません。

でも、「締めきり」ということばの本義からすれば、仕事を請けおった側の人は「締めきり」を気にしすぎなのかもしれません。「締めきり」は、自分が主体となるものごとではないのだから……。

「締めきる」のはだれかといえば、仕事を請けおった側の人でなく、仕事を頼んだ側の人です。辞書には「取り扱いを打ち切ること。また、その時日」とあります。

仕事を頼んだ側の人からすれば、締めきり日時を過ぎても納品がなければ、辞書どおりでは「打ちきる」ことになるわけです。なにを「打ちきる」のかとえば、この場合は「頼んでいた仕事を」となるでしょう。つまり「頼んでいた仕事については、約束の日時までに納品されなかったので締めきりましたから」と。

しかし、頼んだものがまだ納められていないのに、頼んだ側の人が「締めきりましたから」と放っても、ことはなにも解決されません。納められるはずのものが納められていないのですから。

もし仮に、頼んだ側の人が、受けおった側の人に対して「おまえに仕事をくれてやる。もし、納品が約束の日時より遅れたら、ものを納めなくてもいっこうに構わないからな。だが、そうなったら報酬は払わないし、もうおまえには新たな仕事をあたえてやらない」ぐらいの、きわめて高慢な態度に出られる仕事であれば、締めきりをすぎて納品がなければ、辞書どおりの「締めきり」にして、その仕事を打ちきることができるかもしれません。

しかし、“頼む・請けおう”という関係での仕事において、このような「締めきり」はまずもってありません。頼んだ側の人は、受けおった側の人に、約束の日時までに納品させないとまずいことになるからです。たとえば、予定していた出版日を遅らせなければならなくなったり、製品発表会を中止せざるをえなくなったり……。

そうした由々しき事態を避けるために、頼む側の人は、請けおう側の人に対して、ぜひ守ってもらわないと困るという意味を込めての「締めきり」を課すわけです。

しかし、約束を守るかどうかは、あくまで請けおう側にかかっているわけです。納品するのは請けおった側の人なのですから。ここには「締めきり」のねじれが生じています。

そもそも「締めきり」は、“頼む・請けおう”という関係にある人びとのあいだで使われることばでなく、“募る・応じる”という関係にある人びとのあいだで使われるものなのでしょう。

「この仕事に興味ある人は、何日の何時までに連絡ください」と募っておいて、その日時を過ぎて応じてきた人がいたら、「あ、もうその仕事の募集は締めきってしまいました」と言えば済むだけですから。締めきりを過ぎても、なにも困ることはありません。

参考資料
goo類語辞典「『締め切り』の類語・同義語」
https://dictionary.goo.ne.jp/thsrs/15009/meaning/m0u/
goo国語辞典「しめきり」
https://dictionary.goo.ne.jp/jn/101005/meaning/m0u/しめきり/
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